4位から大逆転優勝のNECレッドロケッツ エース古賀紗理那が大切にしてきたチームの力

田中夕子

MVPの古賀「私たちのチーム力を誇りに思う」

MVPを受賞した古賀は両手の人差し指を立てて仲間に胴上げされた 【(c)V.LEAGUE】

 崖っぷちから進んだファイナルでも、両者が流れをつかみたい序盤、まず試合を動かしたのは古賀だった。

 3対3の場面からサービスエースを含む4連続ブレイクで7対3と突き放す。攻めの姿勢を自ら示して見せ、最も重視してきたという攻撃面でも「こんなバレーを目指したい」と言い続けてきたオフェンススタイルを体現するごとく、Aパス、Bパス、レシーブからのサイドアウトに関わらず、ラリー中も積極的に至るところから攻撃を仕掛ける。特に、サーブで崩された状況や、やっとつないだ1球を「絶対に決める!」と飛び込んでくる古賀のバックアタックは圧巻で、セッターの澤田由佳は「どんな時も入ってくれるのがわかっていたから、信じて上げた」と言い、古賀も「苦しい時ほど澤田は上げてくるのがわかっていた」と笑う。

 長いシーズンをかけて合わせ、磨いてきたコンビネーションの賜物でもあるが、どれほど長くラリーが続いても動き続け、フィニッシュを決める筋力、持久力を維持し続けた証でもある。普段は「アタッカーの小さな変化に気づかないぐらい、みんなが自分のトスを打ってくれる」という澤田だが、明らかに今季の古賀には変化があった、と明かす。

「もともと速さはダントツでしたけど、去年と比べて高さが違った。あの高さとスピードで打てるのは、サリナだけだと思います」

 自分に足りないものは何かを見極め、そのために必要な課題をクリアする。技術だけでなく体力面も同様で、提示されたトレーニングメニューに加え、上野と共に「追加のスペシャル体幹メニューをもらってやってきた」と言う成果は、空中での余裕につながった。

「バックアタックを打つ時に、今日は相手のブロックもすべて見えていたので、打ち分けました。私自身も2つ以上の選択肢を常に持っていたし、澤田にクロスもターンも打てるシチュエーションをつくってもらっていた。入り方も工夫しました。苦しいところで上がってくる時に決めるとチームの士気も上がるので、苦しいからこそ絶対決めようという気持ちを持ちつつ、視野を広く打てたのでよかったです」

 東レも2セットを落としてからエースの石川真佑を軸にした攻撃で猛追。「石川につなげば決めてくれる」とディフェンスも驚異的な粘りを発揮した。フルセットに突入し、最初のマッチポイントを握ったのは東レ。共に日本代表のエースとして活躍する古賀と石川を擁するチームであることから、エース対決ばかりに注目が集まるが、1点をもぎ取る、決めさせない、とばかりにぶつかり合う勝利への意志。チーム全員の力や思いが結束した、まさに総力戦だった。

 2セットを取られても一方は諦めず、またその逆ではマッチポイントを握られてももう一方も諦めない。そんな激闘の最後は、石川のスパイクを山内美咲がブロックで止め、16対14。2時間23分に及ぶ激闘を制し、NECが6年ぶりの頂点に立った。

 MVPを受賞した古賀は、両手の人差し指を立て、歓喜の胴上げ。

「チームが勝たなければこの賞(MVP)はいただけなかったですし、チームプレーを大切に、組織で戦うのも大切にしてきたのでチームを代表していただきました。去年、一昨年と負け続けて苦しい時期が続く中でも積み上げてきたし、他のチームに負けない質の高い練習をしてきた自信もありました。勝ちに対するマインドを持つことは1人ではできないし、私はチームみんなで戦うのを意識してきて、助け合ってここまでこられた。私たちのチーム力を誇りに思います」

 最後は満面の笑みで、最高の喜びを噛みしめた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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