【多摩川クラシコ名勝負・FC東京編】過去40試合から選出したのは、大逆転劇、リベンジマッチ、あの選手が輝いたゲーム!
2008年4月19日/J1リーグ第7節
FC東京4-2川崎(味スタ)
ルーキーの大竹洋平のループシュートでFC東京が逆転。12失点を喫した前年のリベンジを果たした 【Photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images】
FC東京:25'カボレ、43'赤嶺、63'大竹、70'今野
川崎:19'鄭大世、26'谷口
●FC東京メンバー
GK:塩田仁史
DF:徳永悠平、佐原秀樹、藤山竜仁、長友佑都
MF:浅利悟、梶山陽平、今野泰幸、栗澤僚一(63'大竹洋平)、赤嶺真吾
FW:カボレ(84'川口信男)
監督:城福浩
●川崎メンバー
GK:川島永嗣
DF:井川祐輔、寺田周平、伊藤宏樹
MF:森勇介(84'久木野聡)、中村憲剛、谷口博之、山岸智(74'黒津勝)、大橋正博(63'養父雄仁)
FW:鄭大世、ジュニーニョ
監督代行:高畠勉
2008年から新たにチームの指揮を執っていた城福浩は、試合前のミーティングでホワイトボードにこう書き記した。
「12」
選手たちの顔を見回し、ひとりの選手に視線が止まる。指揮官は「みんな初めはよく分かっていなかったけど、シオ(塩田仁史)だけは違っていた。すぐにそれが何なのかを理解していた」と言う。
それは07年の多摩川クラシコで喫した失点数だった。敵地で2-5と敗れ、本拠地では当時のクラブワーストとなる0-7で大敗。川崎は前年の屈辱を晴らすかのように攻撃の手を最後まで緩めることなく、完膚なきまでにたたきのめされた。
「シオ、分かってるよな。この屈辱を晴らす番だぞ」
試合は前半から点の取り合いとなった。19分に川崎が鄭大世のゴールで先制されるが、同25分にセットプレーからカボレが押し込んで同点に。だが、直後の26分に谷口博之に勝ち越しを許すも、前半終了間際に赤嶺真吾のゴールで振り出しに戻した。
63分に、この日の主役が登場する。ルーキーの大竹洋平がピッチに送り出された直後だった。中盤でボールに触り、ゴール前へと駆け上がる。セカンドボールのこぼれ球を拾った瞬間、得意の左足でループシュートをゴールへと流し込んだ。
さらに、70分には複数の選手が連動してパスをつなぎ、最後は大竹が出したスルーパスを今野泰幸が沈めた。人とボールが動く『Moving Football』で、ダメ押しゴールを奪ってみせた。この得点を指揮官は「今季の小平でやり続けてきた形だった」と言い、こう続けた。
「ああいう風に点を取りたい、崩したい、という狙いをようやく具現化し、得点できたことは良かった。選手も確信を持てたシュートだったと思う。そういう点から今日の勝利は意味がある。勝つことはうれしいが、積み上げて、それが結果につながっていることの喜びは大きい。今後も、今日の4点目のようなシーンをもっと増やせるように頑張りたい」
そして、この日の試合終盤に川崎の猛攻を受けたが、そこで好セーブを連発してチームを救ったのは1年前に川崎相手に12失点した塩田だった。さらに、続くアウェー戦では前半に退場者を出しながらも完封勝利を収めた。シーズンダブルを飾った塩田の「悔しい思いが残っていたので結果を出せて良かった」と安堵した姿も、忘れられない多摩川クラシコの思い出だ。
2019年2月23日/J1リーグ第1節
川崎0-0FC東京(等々力)
横浜FMへの期限付き移籍から復帰した久保建英が、川崎との開幕戦で進化を証明。攻守に渡って輝いた 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】
川崎:なし
FC東京:なし
●川崎メンバー
GK:チョン・ソンリョン
DF:マギーニョ(55'馬渡和彰)、奈良竜樹、谷口彰悟、車屋紳太郎
MF:守田英正、大島僚太、中村憲剛(81'知念慶)、家長昭博
FW:レアンドロ・ダミアン(73'齋藤学)、小林悠
監督代行:鬼木達
●FC東京メンバー
GK:林彰洋
DF:室屋成、チャン・ヒョンス、森重真人、小川諒也
MF:久保建英(77'大森晃太郎)、髙萩洋次郎、橋本拳人、東慶悟
FW:永井謙佑(63'田川亨介)、ディエゴ・オリヴェイラ(87'ナ・サンホ)
監督:長谷川健太
久保健英という飛びきりの原石が磨かれ、まばゆい光を放ち始めた。そのキャリアの初期衝動が詰まっていたのが、この多摩川クラシコだった。
「サッカー選手として大事なのは始まりじゃなくて終わりだと思っている。十代でデビューする選手も、大学を卒業してからデビューする選手もいる。自分は始まりよりも終わったときにどういう選手になったかを大切にしていきたい」
10歳のときに海を渡り、スペインの名門FCバルセロナのカンテラで活躍してきた。だが、15年に18歳以下の選手の移籍に関する規則違反によって処分を科され、日本への帰国を余儀なくされた。
それから4年の月日が経過しようとしていた。18年はシーズン途中に活躍の場を求めて横浜F・マリノスへの期限付き移籍を決断。再び青赤に袖を通した、久保のまとう空気は明らかに違っていた。開幕前のキャンプ中、選手たちが口々にこう話していた。
「今年のタケはひと味違う」
久保にとって輝く一年が幕を開ける。J1開幕戦では史上3番目の若さとなる17歳8カ月19日で先発出場すると、進化の跡を見せつけた。
見せ場は41分に訪れる。ペナルティーエリアの右角付近で直接FKを獲得すると、ボールをセット。「位置的に狙えるかなと思った」が、隣に立った東慶悟から「打ってもいいんじゃない」と声が掛かる。
その言葉で迷いは消えた。短い助走から振り抜いた左足にはいい感触が残った。「蹴った瞬間入ったと思った」というボールは、弧を描いてゴールへと向かう。川崎GKチョン・ソンリョンがその場に立ち尽くすコース、スピード共に完璧なシュートだった。
しかし、惜しくも右ポストをたたいた。久保は「イメージだともう少し左だった」と天を仰いだ。
この日は元日本代表DF車屋紳太郎のドリブル突破を阻止するなど、課題と言われてきた守備でも光るプレーを見せた。
その存在感に、長谷川健太監督も試合後、「素晴らしいのひと言」と絶賛し、こう続けた。
「昨季からの上積みを見せられたと思うし、この1年で堂安(律/現フライブルク)がヨーロッパに行く前のレベルにきている。U-20ワールドカップ・ポーランド大会を経験して刺激を受ければ、ヨーロッパからまたすぐに声が掛かると思う」
指揮官のガンバ大阪時代の教え子である堂安は、17年のU―20ワールドカップ・韓国大会を経てオランダへと旅立った。
そして、長谷川監督が太鼓判を押すほど順調に成長した久保は旅支度を整え、この年の夏にスペインへと舞い戻っていった。さらなる輝きを放つために。