町田がJ2頂上決戦を制して首位浮上 負傷者が相次ぐチームを救う2トップ「荒木&エリキ」のプレー

大島和人

16日の大分戦は荒木(左)が2得点、エリキ(右)が1得点を決めた 【(C)FCMZ】

 注目のJ2首位攻防戦は、勝ち点2差の2位・FC町田ゼルビアが前半で3点のリードを奪う意外な展開になった。町田は第2節からの6連勝で首位に立ったものの、そこから2試合で勝ち点1と失速。第9節のジュビロ磐田戦を1-1と引き分け、大分トリニータに首位も奪われていた。MF下田北斗、FWデューク、DF池田樹雷人と負傷者が相次ぎ、特に前線でターゲットになるデュークの不在は大きく影響していた。

 しかし16日の大分戦は、黒田剛監督と選手たちが今までにない試合運びの“引き出し”を示して3-1の快勝を見せている。町田は第10節終了時点で勝ち点23と、J2の首位に返り咲いている。

先制後のゲームプランに違い

 町田は前半23分、右CKからの鮮やかなトリックプレーで先制を果たす。黒田監督はこう説明する。

「自分たちのプレッシングの強度が続いているうちに点を取りたいという欲がありました。得点シーンの形は、右コーナーキックの1本目でやろうと思っていました。トリックプレーは先発メンバーで練習をするので、やるタイミングを失ってしまう可能性もありますから」

 ただ「堅守で勝ち切る1-0のプランを志向しているチーム」(黒田監督)が、大分戦は先制後も畳み掛けた。ボランチの稲葉修土は振り返る。

「先制点が入るまでは少し様子を見ながらだったんですけど、ビルドアップのところで何か『食えそうだな』という雰囲気がありました。もうそのまま(プレスを)かけていいのではないか?と思っていたので、荒木選手とエリキ選手に『このままずっと前から続けていこう』という判断を伝えました」

 確かにこの試合で、町田のプレスはよく“ハマって”いた。大分は[3-4-2-1]の布陣でピッチを広く使い、ボールを握って相手を振り回すスタイル。最終ラインにプレスをかけられても、狭い隙間を突いて逆手に取る上手さが特徴だ。しかし町田はそれでも[4-4-2]のユニットが高い位置からプレスをかけ、前向きのいい奪い方を繰り返していた。コースを消し、中を固めるだけではない、前から奪いに行く守備がハマった。

積極的な守備で大分を圧倒

今季から町田の指揮を執る黒田剛監督 【(C)FCMZ】

 黒田監督は試合当日の朝にチームへ加えた修正を明かす。

「ミーティングで作った映像で大分のいい部分だけをチョイスし過ぎました。『こんなにクオリティーが高かったのか』と、臆病になったわけではないですが、(相手のプレーを)規制することに重きを置く練習になっていました。ただ町田の良さは前からのプレスです。朝のミーティングで(積極的な)やり方を共有したことが、いい方向に作用しました」

 大分は自信のある攻撃の形を貫いたものの、それが裏目に出て狼狽(ろうばい)した様子に見えた。下平隆宏監督は試合後にこう語っている。

「いわき戦、山口戦と前から来る相手に前進をして、それぞれ3点を取りました。メンバーを変えなかったのも、町田さんのプレスがある中でも剥がせる自信があったからです。ただ失点で(町田に)勇気を与えてプレスが強まり、われわれは腰が引けて、押し込まれる展開になってしまいました」

 もっともコースの規制、プレー方向の限定が不十分な状態で前からプレスをかければ、それは大分の思うつぼだ。パスをボランチやシャドーに通されてそこで前を向かれる場面が増えれば、それは相手のペースだ。町田は“隙間”で持たれた場合の対応を練り、相手の立ち位置やハマり具合を確認しつつ、徐々にプレスの強度を上げて一気に流れを持っていった。後半は大分が[4-3-3]に布陣を変えたこともあり、違う展開になったが、試合の大勢は揺るがなかった。

荒木が3点に絡む

 町田は33分、39分とカウンターから畳み掛けた。33分の2点目はペナルティエリア内でGKからのビルドアップにプレスをかけ、パスを奪った荒木駿太がそのままゴールに蹴り込む超ショートカウンター。荒木が「(高橋)大悟とエリキが限定してくれていて、あそこにしかパスコースがなかった」と振り返る、チームで奪った形だった。

 荒木は今季ここまで5得点と素晴らしい結果を残しているが、第8節まではリザーブで起用されていた。初先発の第9節・磐田戦は得点に絡めなかったが、大分戦では2得点1アシストと大活躍を見せている。23歳の彼は相手を剥がす突破力に加えて、両足の正確なシュート力を持ち、なおかつ周りが見えているアタッカーだ。黒田監督がこう述べる。

「ラッキーボーイ的な存在として開幕から活躍していましたし、先発が疲れてきた時間帯に使いたい駒でもあります。先発で使うことは、最終的に(試合終盤の攻撃力が弱まる)リスクもありますが、さすが(長崎総合科学大学附属高校在学中に)小嶺忠敏先生の教え子で、(大分戦は)12キロ以上走っています。運動量とバイタリティーを持って、先発から起用できることは前節の磐田戦でも証明できました。エリキとの相性もいいので、2人の関係性を守りながら、堅実にプレーしてくれた成果です」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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