国別対抗戦の1週間前に出場が決まった佐藤駿 4回転ルッツへの挑戦は「気持ちの大きな変化」

沢田聡子

周囲に支えられて臨んだフリー

フリーでも4回転ルッツに挑んだ佐藤 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 フリーで巻き返す展開は得意な佐藤だが、しかし公式練習でなかなか調子が上がらない。「本当に不安しかなかった」という佐藤を支えたのは、日下匡力コーチだった。苦しむ佐藤に「大丈夫だよ、行けるよ」と声をかける。

 調整の難しさを理解している日本チームのメンバーも、佐藤を励まし続ける。後に一夜明け会見で攻める気持ちを保てた理由を問われた佐藤は、「チームジャパンの皆さんの声がけが大きかった」と感謝している。

「フリーの前は緊張していたのですが、チームジャパンの皆さんから『練習だと思ってやってこい』みたいな感じで言われたので。すごくそれが励みになって、少し緊張が解けたのが大きな要因だったかなと思っています」

 また、佐藤は「ファンの皆さんの声かけのおかげでリラックスできて」とも振り返っている。日下コーチやチームメイト、そして観客に支えられ、佐藤はフリーに臨んだ。

 フリーの曲『Red Violin』が流れ始めると、佐藤は4回転ルッツの軌道に入った。しかし、回転が抜けて3回転になってしまう。そこで佐藤は、「どこかでやろうかな」と4回転ルッツへの再挑戦を視野に入れている。

 続いて4回転トウループ―3回転トウループ、トリプルアクセルからの3連続ジャンプを2点台の加点がつく出来栄えで決める。4つ目のジャンプは4回転トウループの予定だったが、ここで佐藤は果敢に4回転ルッツに挑み、こらえながらも降りる。4回転の中でも難しいルッツを再び跳ぶ、思い切った挑戦だった。

 その後、佐藤は予定通りにジャンプを決めていき、残るジャンプは一つだけとなった。予定では3回転ループだった最後のジャンプを4回転トウループに変更し、回転不足ながら着氷。思わず繰り出したガッツポーズに、佐藤の喜びが表れていた。

 ジャンプをすべて終えた後は、ステップシークエンスとコレオシークエンスが続く。

「本当に最後の最後だけですけれども、ステップのところは楽しんで滑ることができました」

 攻める気持ちで滑るという課題を果たした佐藤は、気持ちよくステップを踏んだ。

 チームメイトに迎えられたキスアンドクライで、佐藤は目を拭っている。フリーの得点は164.86、8位だった。

「本当にショートは良くなかったですし、チームの全員に迷惑かけてしまったので、それもあって。フリーも自分の中ではいつもよりはいい演技ができなかったので、少し悔しい部分もあった」

 ミックスゾーンで、佐藤は予定外の4回転ルッツについて語った。

「ここで安全策というか、いつも通りやっていたら、もう少し多分点数は伸びたのかなと思うのですが、でも『ここはやるしかないな』と思って」

 緊張と不安の中で迎えた国別対抗戦だったが、戦い終えて残ったのは充実感だった。

「なかなか、調子も上がっていなくて。団体戦ということで『チームのために』と考えたら、頑張ろうという気持ちが先走ってしまって。練習ではあまりいいジャンプが跳べていなかったのですが、本番でしっかりと4回転トウループと、(4回転)ルッツは(回転が)足りなかったのですが締めることはできて、すごく成長できたかなと思っています」

 銅メダルを獲得した日本チームのキャプテンとして会見に臨んだ坂本花織は、心に残ったシーンを問われ、佐藤のフリーについて言及している。

「佐藤選手は急遽出場が決まって、シーズンが終わってほっとしたところでその発表があったので、本当に発表から大会まですごく調整が大変だったと思う。その中でも、今日のフリーは本当に心に響くものがあった。『最後まで戦い抜くぞ』という気持ちが、すごく目に見えた。4回転ルッツを途中で入れていましたが、その後、キスアンドクライで日下先生から『あそこに4回転ルッツを入れる構成ではなかった』と聞いて、本当にびっくりした。それを聞いて余計感動したし、本当にチームジャパンの一員として最後の最後まで戦ってくれたんだな、という感謝の気持ちでいっぱいです」

 一夜明け会見で、佐藤は清々しい表情をみせていた。

「今までの自分だったらおそらく4(回転)ルッツに挑戦しなかったと思うのですが、あそこで挑戦したのは、自分の中でも気持ちの大きな変化かなと思っていて。来シーズンに向けても、自分で言うのもなんですけど、いいことだなと思いました」

 「来シーズンの目標は、今シーズンの順位よりも高い順位を目指して」と佐藤は語る。

「今年は全日本選手権で表彰台に乗ることができなかったので、来シーズンは全日本で表彰台に乗れればいいかなと思っています」

一週間前に出場が決まった国別対抗戦は、佐藤にとって挑戦する勇気を手に入れる試合となった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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