J2首位の町田が主力不在でも5連勝 苦戦しつつ終盤に試合を決めたゲームプランとメンタリティ

大島和人

町田は26日のいわき戦を苦しみながら1-0とものにした 【(C)J.LEAGUE】

 開幕前に今季のJ2を見通したとき、FC町田ゼルビアは間違いなく「昇格の可能性がある」チームだった。オーストラリア代表のデューク、元横浜F・マリノスのエリキといった有力選手を獲得し、充実した戦力を確保していたからだ。

 一方でJ2に関する予想記事やアンケートを見ると、優勝候補の筆頭は清水エスパルスで、町田は7番手か8番手だった。町田は過去にJ1経験がなく、人材を多く入れ替えていた。チーム作りは時間がかかるし、青森山田高校を全国的な強豪に引き上げた黒田剛監督も、プロでは未知数の新人。可能性は語られつつ、同時に疑問視される存在だった。

 その町田は開幕から6試合を終えて、5勝1分けと首位に立っている。開幕戦でベガルタ仙台に引き分けたものの、第2節・ザスパクサツ群馬戦(2○0)から3月26日のいわきFC戦(1○0)まで無傷の5連勝と、見事なスタートダッシュを決めた。

町田が苦しんだいわき戦

 もっとも開幕からMF下田北斗、FW高澤優也ら負傷者が相次いでいる。さらにアウェイいわき戦はデュークが代表活動でチームを離れ、前半にボランチの高江麗央が傷んだ。

 また、いわき戦は内容的に厳しいものだった。2トップの一角で藤尾翔太が起用されたが、明らかに前線の迫力は落ちた。競り合いに強くボールが収まり、なおかつ配球能力が高いデュークの存在は、他のアタッカーを助けている。いわきは敵陣に躊躇なくボールを送り、攻守とも積極的に前進してボールに食いついてくるスタイル。球際の強さと献身性はJ2最高レベルだ。

 町田は攻守で前に踏み込めなくなり、チーム全体の重心が後ろに寄っていた。試合後の黒田監督はこう述べている。

「今日は雨が降り続く中、難しいゲーム展開になりました。やはりいわきのフィジカル的な強さ、インテンシティーの高さ、切り替えの速さ、そして徹底して背後にボールを入れてくる部分も含めて、彼らのサッカーに苦戦しました」

 しかし町田は難敵に、難しいコンディションの中、チーム力で勝ち切ってみせた。指揮官は勝因をこう説明する。

「粘り強く1人ひとりが対応し、前半を無失点で抑えられたことが後半の良い流れに結びついたと思います。いわきの運動量が落ちてきて、ワンチャンスを活かせました」

押される中で打った布石

 前半の町田はセカンドボールをなかなか取れず、得点の気配も出せなかった。ただし試合をコントロールしつつ、相手にジャブは打っていた。奪ったボールを中央からサイド、サイドから同サイドという矢印で動かしつつ、「カウンターにつながる奪われ方を避けて、相手を走らせる」攻撃をしていた。

 またGKのポープ・ウィリアムやボランチが攻撃時にDFラインへ入り「後ろに数的優位を作ってボールを握る」工夫もしていた。今季の町田は守備からチームを作っていて、相手を振り回して崩し切るパスワークはまだ期待できない。しかし相手の激しいプレスに対して「後ろ」「外」という逃げ場を使って、難しい時間を凌ごうとしていた。

 ポープは述べる。

「落ち着かせることが大事になる中で、前半は(髙江)麗央やイナ(稲葉修土)が(CBの間に)落ちたり、自分が入ったりしながらやっていました。前半は正直ゼロで終わればいいという感覚でした。ゼロで進めるためにシンプルにプレーする場面、後ろで持ちながらが進んでいく場面を作らなければいけませんでした」

「耐えて取れる」が町田の強み

町田の決勝点は終盤の87分だった 【(C)J.LEAGUE】

 黒田監督を筆頭にチーム内で共有されている鉄則は「無失点で時計の針を進める」こと。0-0で試合が進むことに対して、選手たちはストレスを全く感じていない。センターバック(CB)のカルロス・グティエレスはこう振り返る。

「難しい時間帯はあるけれど、そこをしっかり耐えてやればチャンスがある。耐えて取れるところは、このチームの強みだと思います」

 実際に町田は後半に入ると流れを取り戻していく。いわきの選手たちは運動量が落ち、足を攣(つ)り始めていた。

 町田は70分のカウンター、84分のサイド攻撃などでチャンスを迎える。そして87分、ついに均衡を破った。池田樹雷人が左サイドに送ったボールを沼田駿也が活かし、荒木駿太はダイレクトの左足のクロスを送る。黒川淳史のヘッドは相手GKにブロックされたが、黒川は自らこぼれ球を押し込んで町田は終了間際に勝ち越した。

「0-0」は町田の展開

 選手たちには「0-0ならば自分たちのペース」という感覚が芽生えつつある。実際に75分以降、80分以降の勝負どころになってプレスの強度で相手を上回る、点を決める展開が続いている。

 昨年の町田は「互角以上の展開を落とす」「終了間際に勝負を決められる」という悪い傾向があった。それが今季は真逆のチームカラーになっている。

「内容が悪くても耐えて勝ち点をもぎ取れる」「ギリギリの展開を勝てる」ことが偶然とは思えない。チームが終盤の勝負手から逆算して試合を組み立てている戦術の作用もあるだろう。さらに尻上がりに強度を上げてトドメを刺す“勝利の方程式”が確立したことで、選手がメンタル的に相手を上回れるようになった。結果が自信を生み、自信が結果を生む好循環が生まれている。これこそが世に“勝者のメンタリティ”と言われるものだ。

 プロ野球の名将・野村克也は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という言葉を好んだが、この金言には「だから、負けないように戦うべき」という含意がある。“不思議の負け”を避けることで、町田には勝ち点3を手にできている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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