終盤に強度を上げて相手を圧倒するJ2町田 黒田監督と選手が語る“勝利の方程式”

大島和人

ダメ押しゴールを決めてベンチに駆け寄る荒木駿太(右) 【(C)FCMZ】

 2023年のJ2は開幕直後から混戦模様で、3試合を終えて優勝候補筆頭の清水エスパルスが未勝利の3分け。3連勝で首位に立っているのが大分トリニータで、続く2位のFC町田ゼルビアは勝ち点7、得失点差「+3」だ。

 今季の町田は大胆な選手補強、大幅な入れ替えを敢行している。特にFWはオーストラリア代表のミッチェル・デューク、2019年と20年に横浜F・マリノスで大活躍を見せていたエリキを並べる“超J2級”の顔ぶれだ。もっとも交代枠が「5」に拡大されたアフターコロナのサッカーは、ベンチメンバーの活用が必須となっている。残り30分頃からフレッシュなアタッカーを投入し、流れを変える采配は現代サッカーの定石といっていい。

見えてきた町田の「勝利の方程式」

 黒田剛・新監督は試合の“クローズ”にどのような選手起用を見せるのか? そこは町田を観察する上で、興味の一つだった。

 町田は第2節・ザスパ群馬戦、第3節・ツエーゲン金沢戦とも、「前半に先制し、終盤に追加点を挙げる」展開で勝ち点3を奪っている。スコアは群馬戦が2-0、金沢戦が2-1。群馬戦は84分、金沢戦は91分に2点目を決めていて、得点が必要な相手の焦りを生かした流れだった。

 黒田監督は金沢戦後にこう説明している。

「後半に関しては、0-0のプランを大きく崩さず、守備をしっかりとしながら攻撃に入っていくことを徹底しました。2点目を取り急ぐことなく、1-0のまま進めながら、チャンスが来た勝負どころで2点目を奪いに行く。それが我々の勝つための方程式だと思っています」

 両試合の後半に起用されたインパクトプレイヤーがFW荒木駿太、FW沼田駿也、MF稲葉修土の3名。この3名がピッチに立つと、町田はプレスのインテンシティが明らかに上がる。特に金沢戦は74分の3枚替えで荒木、沼田、稲葉がピッチに入ると、流れは一気に町田へ傾いた。荒木は83分の決定機こそ決め切れなかったが、91分にGKとの1対1の場面でしっかり流し込んで勝利の立役者になった。

前線からのプレスで流れを作る

 荒木は金沢戦におけるプレーの狙いをこう振り返る。

「プレスの行き方、サイドバックが持ったときに背後へ抜ける動きを、監督と(金)明輝さんに言われていました。あと個人的には時間が経過するなかで『セカンドを拾われているな』という感覚があったので、そこを拾えるとチャンスが増えるかなとも思っていました。自分の分析、監督や明輝さんに言われたことを意識しながら試合に入りました」

 ボランチの下田北斗はこう口にする。

「交代で入ってきた選手がパワーを出してくれていますし、前から(プレスの)スイッチが入っている。僕らもそれについて行って、パワーを落とさないようにみんなでやっていければいいと思います。今日は途中から出て点に絡んでくれたけれど、そういう選手がいるとチームも活性化するし、助かりました」

 黒田監督はこのように分析する。

「沼田駿也や荒木駿太、稲葉修土らが入ることで前線が活性化します。相手はどんどん前から行きたい状況にもかかわらず、後ろにプレスが掛かるわけですから。嫌な時間帯に、嫌な選手が入って来る、相手がとてもやりにくい状況を作れています。これが1つの町田の形になるのかなと彼らを起用しましたし、彼らも期待に応えてくれました」

黒田剛・新監督(中央)は青森山田高の指揮を長く執っていた 【(C)FCMZ】

ハイプレスはリスクもある

 リードした終盤に「前からしっかりプレスを掛けられる選手」を入れることは、サッカーの定石だ。黒田監督が名前を挙げた沼田、荒木はスピードやアジリティに恵まれた、突破や抜け出しに優れている選手だが、何より前線の守備力が高い。サッカーは90分の“流れ”が大切で、試合を落ち着かせたほうがいい時間帯もある。一方でスペースが空いてくる終盤は「かき回せる」「仕掛けられる」タイプが生きる。

 荒木は言い切る。

「プレッシングが自分のストロングポイントだし、そこを期待して監督は自分を使ってくれています。あれをやってこそ自分だなと思っています」

 ただ群馬戦、金沢戦の終盤に町田が見せた前線のプレッシングは“やりすぎ”に思えるほどの強度だった。誰かが激しくプレスに行っても、他の選手が呼応しなければ、逆にスペースは空く。フィールドプレイヤー10名のうち誰かがサボれば、考えがズレていたら、むしろ守備の穴を作る無駄な動きとなる。

 しかし直近の2試合は1人目が相手のプレーを限定しつつ、2人目以降が「その次」「次の次」へプレッシャーに行けている。苦し紛れに蹴ってくれれば、そこには圧倒的な高さを持つCBが待ち構えている。追い込みどころ、奪いどころを皆が共有した上で「行く」「行かない」というメリハリをつけられているから、穴にはなっていない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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