バレー界のホープはWBCから刺激受ける元野球少年 髙橋藍が五輪予選に向けてイタリアで感じること

田中夕子

髙橋藍は日本体育大に在学しながら、現在はイタリアのプロチームでプレーしている 【平野敬久】

 子どもの頃は野球少年だった。

 そもそも「藍」という名前自体、野球好きの父が野球にちなんでつけたもの。2つ上の兄、これまた野球が由来の“塁”の影響で小学2年生から髙橋藍はバレーボールを始めた。とはいえあのまま野球を続けている道もあったし、もともとスポーツ全般が大好き。取材時にはまだ開幕前で、日本でもそこまでの盛り上がりを見せていなかったWBCにも、イタリアで「ワクワクする」と目を輝かせていた。

「めちゃくちゃ楽しみですね。ダルビッシュ(有)選手が来て、大谷(翔平)選手もいて、アメリカも本気出してくる。夢の世界じゃないですか。もともと野球が好き、野球をやっていたということを抜きにしても、スポーツをやっている身としては刺激になるし、単純に『すげーな』と。バレーボールもいつかそれぐらいの規模になりたいし、近づくために頑張らなきゃ、と思いますよね」

イタリアで「野太い声」に後押しされて

 かつては憧れ、見上げていたトップアスリートの存在。今は髙橋自身もバレーボール界のトップアスリートとして世界で活躍し、子供たちや同世代の選手から羨望のまなざしを向けられる存在だ。

 最初に注目を浴びたのは、東山高で春高を制した2020年1月。エースで主将、しかも失セットゼロで初優勝を成し遂げた強さは圧倒的で、連戦続きの決勝戦で最高のパフォーマンスを発揮する姿に決勝で対峙した駿台学園の敵将も脱帽した。京都から駆け付けた全校生徒の応援や、OB、家族。たくさんの声援を背に受け、最高の喜びを味わった。

 だが、その2カ月後からスポーツ界を取り巻く環境は一変した。大会は軒並み中止になり、少しずつ再開されても応援はなく無観客。「人が入れば入るだけ燃える」という髙橋だけでなく、これまでならば1本のサービスエース、スパイク、ブロックが決まるたびに沸き起こる歓声がなくなったスタンドに寂しさを覚えた。

 あれから3年。だからこそ余計に、マスクを外し、太鼓と野太い声で声援が送られるイタリアのサポーターに囲まれる中で試合ができるのはたまらなく楽しい。髙橋はそう言って笑う。

「老若男女誰もが一緒に戦っている感じが伝わってくるんです。それこそカップルがデートで来たり、家族で来たり、いろんな人がいるけれど、一体感がある。よくないプレーをしたり、ミスが続いたらそれこそ、何してんねん、みたいな感じでサポーターからはブーイングされるし、もっと気合入れて行けよ、と怒られることもあります(笑)。でもその分、いい場面で得点が入ったり、ラリーを取り切った後にはめちゃくちゃ盛り上がって一緒に喜んでくれる。それだけで自分の気持ち、モチベーションは上がるし、アドレナリンも出る。黄色い声援も嬉しいし(笑)、試合中にカメラで写真を撮ってくれるのも嬉しい。楽しみ方はいろいろあるけれど、イタリアのあの応援スタイルは僕にはすごく合っているというか、とにかく(気持ちが)上がりますね」

上のステージに向けては「やっぱり言語」

少しずつ周囲に溶け込み、やり取りも増えている 【平野敬久】

 声援に押されながらも熱くなるばかりでなく、冷静に。そして緻密に。巧みな技術も武器にする髙橋にとって、いかなる時でもセッターとのコンビネーションは自らを活かすためにも欠かせない。一昨年の12月にパドヴァへ来たばかりの頃は英語とイタリア語を交えた会話や、練習での1本1本を積み重ねながらコミュニケーションを重ねてきた。同じパドヴァで2シーズンを戦ったこと、特に今年はシーズン開幕当初から合流して、チーム内での信頼関係を築いてきたこともあり、どんなトスが欲しいのか。この場面ではどんな攻撃がしたいのか。髙橋藍という選手に対する理解度も上がってきたことを実感しているが、だからこそ、さらに上のステージへ進むためには乗り越えなければならない壁もあると実感している。

「やっぱり言語ですよね。イタリアにいる以上、もっと自分がイタリア語を流暢に話せるようになれば、もっと細かいプレーができるようになるかもしれないし、もっともっと新しいこともできるかもしれない。石川(祐希)選手を見ていると特にそう感じます。常に安定した、ミスの少ないバレーボールをし続けることも大事ですけど、プロの世界ではもっと自分から積極的に行かなきゃいけないと実感します」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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