岩政監督、鈴木優磨も「代表入り」を示唆する新戦力 “無名”の佐野海舟が鹿島の救世主になった理由

大島和人

22歳の新加入MFが鹿島の救世主になっている 【(C)J.LEAGUE】

 鹿島アントラーズは、生え抜きを上手く育てきたクラブだ。柳沢敦、小笠原満男、中田浩二、内田篤人、植田直通といった面々は高卒で鹿島に加入し、日本代表とヨーロッパのクラブに羽ばたいている。一方で昨今のJリーグは人材が以前より早いタイミングで海外に出ていくため、J1の有力クラブほど人材の出入りが激しい。完全にチームの主力として定着する前に、若手有望選手はヨーロッパに出ていってしまう。となると、なかなか自前だけでは問題を解決できない。

 今季の鹿島は20代前半の“若手国内移籍組”が加入早々から持ち味を発揮している。3-1で勝利した4日の横浜FC戦を振り返ると、佐野海舟と藤井智也の活躍が際立っていた。佐野は22歳で、藤井は24歳。元から評価はされていた人材だが、昨シーズンの後半はそれぞれのクラブで“輝けていなかった”選手でもある。

「長所を出すことにフォーカスできる」

藤井智也も佐野とともに持ち味を発揮中 【(C)J.LEAGUE】

 [4-3-3]でスタートした横浜FC戦の前半、佐野は中盤のアンカー、藤井は右ウイングでプレーをしていた。[4-4-2]に形が変わった後半は佐野が右ボランチ、藤井は左サイドハーフに移った。

 藤井は9分に今季初得点を挙げると、55分にはVARの介入で認められなかったものの“幻の2点目”も決めた。立命館大時代から「岐阜の進学校出身でスゴいのがいる」と聞いてはいた。ただサンフレッチェ広島に加わって2年目の昨シーズンは、開幕スタメンに抜擢されたものの1得点にとどまり、後半戦に出番を大きく減らしていた。

 藤井はこう振り返る。

「オファーをしていただくときに『君のこういう部分が必要』とか『君のここを買っている』ということと、それを出すことが試合に出る意味だよと言われていたので、自分の長所を出すことにすごくフォーカスできます。自分が悪いときって、周りの空気を読んでしまう部分があって、それで悪くなっていた」

 藤井が伝えられた強みは「前向きに仕掛けを繰り返せる」「何回もドリブルを仕掛けられる」「トラップが後ろ向きにならない」といったポイントだったという。彼は見失いかけていた強みに再認識して、ワールドカップアジア最終予選の伊東純也を思い出させるような“ゴールの怖さ”も発揮していた。

監督、主将が佐野の「代表入り」に言及

岩政監督も「驚き」を口にする 【(C)J.LEAGUE】

 開幕からサポーター、メディア、そしてチーム内に特大のインパクトを与えている新加入選手が佐野海舟だ。その活躍で、3月5日に発売されたサッカー専門紙『エル・ゴラッソ』の1面も飾っている。米子北高出身で、昨季までJ2のFC町田ゼルビアでプレーしていた。

 試合後の会見で79分の途中交代について問われた岩政大樹監督は「攣(つ)っただけです。『明後日には練習させるぞ』って言いましたけど」と説明。評価を聞かれていたわけではないが、敢えてこう言葉を続けた。

「いずれにしても、彼のプレーぶりですね……。皆さんそうだと思うんですけど、かなりの驚きがあります。彼には『年内には代表を目指していこう』と話をしています。それだけの選手だと思っています」

 キャプテンの鈴木優磨も「ちゃんとやれば代表のスタメンになる」と佐野を絶賛していた。

 確かに佐野のプレーは攻守とも際立っていた。前半はアンカーの位置でスペースを巧みに消し、長谷川竜也の“DFとMFのギャップで絡む”狙いを牽制しつつ、デュエルになれば相手を圧倒していた。ボールを奪い切れるところは彼の明確な強みで、1対1はもちろんだがパスのインターセプト、ルーズボールの“回収”とどれをとっても抜群だ。176センチだから決して大柄ではないが、動きの鋭さと体勢を崩さないアスレチック能力がその対人プレーを支えている。

 横浜FCの四方田修平監督は敗因をこう語っていた。

「球際のところで、なかなか中盤の奪い合いで勝てなかったり、相手の力のあるFWの選手に前線でタメを作られてしまったり、ビルドアップで相手のプレッシャーを剥がしきれなかった。そういった部分が要因で、なかなか自分たちのやりたいことやらせてもらえなかった」
 このうち「球際」「中盤の奪い合い」を鹿島が制した最大の立役者が、佐野海舟だった。加えて攻撃面の貢献も見逃せない。例えば藤井智也との関係について、佐野はこう口にする。

「智也くんにボールが行ったときはあまり寄りすぎないようにしています。寄って相手を連れてくるより、1対1をさせることが大事なので、意識しています」

 この言葉の通り、彼は適切な立ち位置でパスコースや味方のスペースを作る気配りが出来る。1タッチ、2タッチで急所を突く強いパスを出せることも強みだ。

 彼自身は鹿島における自らの役割をこう捉えている。

「本当に個の強い選手がたくさんいます。自分はなるべくバランスを見て、その個を引き出せるような役割をしないといけません。そこはこれからも続けないといけないことかなと思いつつ、勝負のパスはもっと出せると思います」

 単に動き回り、球際で戦うだけでなく、予測で相手に先んじるクレバーさも見逃せない。加えて横浜FC戦の後半は、右中間からの運び出しを繰り返し、推進力で相手の守備を完全に壊していた。佐野がドリブラーかと言われれば違うし、一般論としてボランチは「真ん中を固めてアタッカーやサイドバックを前に出す」ことが仕事だ。ただ佐野は隙間を見つける、タイミングを測って出ていく感覚を持っているし、ボールを運んでも悪い失い方はしない。鹿島もチームとして彼の攻め上がりを「OK」にしているのだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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