岩政監督、鈴木優磨も「代表入り」を示唆する新戦力 “無名”の佐野海舟が鹿島の救世主になった理由
22歳の新加入MFが鹿島の救世主になっている 【(C)J.LEAGUE】
今季の鹿島は20代前半の“若手国内移籍組”が加入早々から持ち味を発揮している。3-1で勝利した4日の横浜FC戦を振り返ると、佐野海舟と藤井智也の活躍が際立っていた。佐野は22歳で、藤井は24歳。元から評価はされていた人材だが、昨シーズンの後半はそれぞれのクラブで“輝けていなかった”選手でもある。
「長所を出すことにフォーカスできる」
藤井智也も佐野とともに持ち味を発揮中 【(C)J.LEAGUE】
藤井は9分に今季初得点を挙げると、55分にはVARの介入で認められなかったものの“幻の2点目”も決めた。立命館大時代から「岐阜の進学校出身でスゴいのがいる」と聞いてはいた。ただサンフレッチェ広島に加わって2年目の昨シーズンは、開幕スタメンに抜擢されたものの1得点にとどまり、後半戦に出番を大きく減らしていた。
藤井はこう振り返る。
「オファーをしていただくときに『君のこういう部分が必要』とか『君のここを買っている』ということと、それを出すことが試合に出る意味だよと言われていたので、自分の長所を出すことにすごくフォーカスできます。自分が悪いときって、周りの空気を読んでしまう部分があって、それで悪くなっていた」
藤井が伝えられた強みは「前向きに仕掛けを繰り返せる」「何回もドリブルを仕掛けられる」「トラップが後ろ向きにならない」といったポイントだったという。彼は見失いかけていた強みに再認識して、ワールドカップアジア最終予選の伊東純也を思い出させるような“ゴールの怖さ”も発揮していた。
監督、主将が佐野の「代表入り」に言及
岩政監督も「驚き」を口にする 【(C)J.LEAGUE】
試合後の会見で79分の途中交代について問われた岩政大樹監督は「攣(つ)っただけです。『明後日には練習させるぞ』って言いましたけど」と説明。評価を聞かれていたわけではないが、敢えてこう言葉を続けた。
「いずれにしても、彼のプレーぶりですね……。皆さんそうだと思うんですけど、かなりの驚きがあります。彼には『年内には代表を目指していこう』と話をしています。それだけの選手だと思っています」
キャプテンの鈴木優磨も「ちゃんとやれば代表のスタメンになる」と佐野を絶賛していた。
確かに佐野のプレーは攻守とも際立っていた。前半はアンカーの位置でスペースを巧みに消し、長谷川竜也の“DFとMFのギャップで絡む”狙いを牽制しつつ、デュエルになれば相手を圧倒していた。ボールを奪い切れるところは彼の明確な強みで、1対1はもちろんだがパスのインターセプト、ルーズボールの“回収”とどれをとっても抜群だ。176センチだから決して大柄ではないが、動きの鋭さと体勢を崩さないアスレチック能力がその対人プレーを支えている。
横浜FCの四方田修平監督は敗因をこう語っていた。
「球際のところで、なかなか中盤の奪い合いで勝てなかったり、相手の力のあるFWの選手に前線でタメを作られてしまったり、ビルドアップで相手のプレッシャーを剥がしきれなかった。そういった部分が要因で、なかなか自分たちのやりたいことやらせてもらえなかった」
「智也くんにボールが行ったときはあまり寄りすぎないようにしています。寄って相手を連れてくるより、1対1をさせることが大事なので、意識しています」
この言葉の通り、彼は適切な立ち位置でパスコースや味方のスペースを作る気配りが出来る。1タッチ、2タッチで急所を突く強いパスを出せることも強みだ。
彼自身は鹿島における自らの役割をこう捉えている。
「本当に個の強い選手がたくさんいます。自分はなるべくバランスを見て、その個を引き出せるような役割をしないといけません。そこはこれからも続けないといけないことかなと思いつつ、勝負のパスはもっと出せると思います」
単に動き回り、球際で戦うだけでなく、予測で相手に先んじるクレバーさも見逃せない。加えて横浜FC戦の後半は、右中間からの運び出しを繰り返し、推進力で相手の守備を完全に壊していた。佐野がドリブラーかと言われれば違うし、一般論としてボランチは「真ん中を固めてアタッカーやサイドバックを前に出す」ことが仕事だ。ただ佐野は隙間を見つける、タイミングを測って出ていく感覚を持っているし、ボールを運んでも悪い失い方はしない。鹿島もチームとして彼の攻め上がりを「OK」にしているのだろう。