柿谷曜一朗がJ2徳島で見せている新境地 スペイン人監督が評価する“意外な”ポイントは?

大島和人

柿谷(写真右)は12年ぶりに徳島でプレーしている 【(C)J.LEAGUE】

 柿谷曜一朗といえば、皆さんはどんなプレーを想像するだろう?やはり、まずはストライカーの動きだろう。レヴィー・クルピ監督が率いた2013年のセレッソ大阪で彼は21得点を挙げ、J1の得点ランキング3位に入った。翌14年のワールドカップブラジル大会はFWとして日本代表に選ばれている。DFラインと駆け引きをしながらいいタイミングで動き出し、フィニッシュに持ち込む「キレ」「スムーズさ」はずば抜けていた。

 育成年代当時の柿谷は、技術や意外性で魅せる攻撃的MFだった。韓国で開催されたU-17ワールドカップ2007のフランス戦でセンターサークル内から決めた50メートル超のロングシュートは、日本のサッカー史上でも1、2を争うスーパーゴールではないだろうか。

 柿谷はこの2023年から、J2の徳島ヴォルティスでプレーしている。徳島は2009年6月から11年まで、若手時代にも在籍していいたクラブだ。33歳を迎えた“ジーニアス”は、過去と違う「渋さ」をまとったチームプレイヤーになった。

「インテリオール」で起用された柿谷

 2月25日の第2節・ヴァンフォーレ甲府戦は、徳島にとって1-1の結果とともに課題と収穫が相半ばする展開だった。前半はボールの保持こそ甲府を圧倒したものの、CBからの持ち出しや縦に入る「クサビ」のパスを狙われて苦しんだ。チームとしてシュートを1本しか打てず、1点のビハインドで折り返している。しかし後半は選手の入替、布陣の変更などで立て直し、シュートの本数も「9対2」で甲府を上回った。

 柿谷は[4-3-3(4-1-4-1)]の左インサイドハーフ、「インテリオール」と呼ばれる位置で先発起用されていた。前半は甲府が組織として中を閉めてくるなか、前向きでボールを持つ機会があまり無かった。

 柿谷は前半をこう振り返る。

「我々の狙いはしっかりボールを動かすことで、間を閉められてもそこを突いてもっと閉めさせて、(西野)太陽や(西谷)和希が外から勝負していく展開に持っていきたかった。相手も前線から、特に武富(孝介)選手のハードワークで、僕たちのいいところを消そうとしてきたので、なかなか苦しかった。ピッチもボールの滑るところと滑らないところがあったりして多少苦しんだし、僕自身も、もう少しボールを引き出せたと思います」

 徳島の3トップは右から西野太陽、渡大生、西谷和希の並び。いずれも縦への推進力に優れたタイプで、甲府戦は外からの敵陣侵入がチームの狙いだった。柿谷は3トップやサイドバックを前に出すためのリンクマンで、なおかつチームのバランスを調整する役割だった。

柿谷の強みは「守備」

ラバイン監督スペイン出身の35歳 【(C)J.LEAGUE】

 ベニャート・ラバイン監督は柿谷の起用について、まず「守備」を理由に挙げる。

「『柿谷曜一朗はプレスをしない』とか『守備が得意ではない』という人がいるかもしれないですけど、自分の印象は全く逆です。先週も一番いい守備をしてくれましたし、今日もチームのプレスのスイッチを入れるような動きをしてくれていました。(攻撃面は)[4-3-3]のシステムではじめたとき、ボールを彼につけていく狙いがありました。ボールを持ったときに違いを生み出せる選手なるので、そこで起用しました」

 徳島のキャプテンは37歳の石井秀典だが、この試合は欠場している。柿谷は甲府戦のゲームキャプテンも任されていた。ラバイン監督は続ける。

「(柿谷は)試合だけでなく、日々のトレーニングでも若い選手の……それ以外の選手も含めた見本になる姿勢を見せてくれています。(ゲームキャプテンは)選手やスタッフ、自分も含めたチーム全体で決めたことです」

 徳島は58分に杉本太郎を投入し、布陣を[4-2-3-1(4-2-1-3)]に変えた。柿谷はトップ下に移り、より自由な動きを見せるようになる。

 なお今季の徳島はプレシーズン、開幕戦と[4-3-1-2]のシステムも使っている。柿谷は2トップの後ろの「1.5列目」に入り、相手のボランチ裏で余ったり、スペースに流れて縦パスを受けたりする役割になる。それも彼の強みを発揮できる仕事だ。

今の柿谷が持つ強みとは?

 甲府戦は主に中央でプレーしていた彼だが、最後の10分は左サイドに流れるプレーを増やした。得点には結びつかなかったものの、それがいいアクセントになっていた。柿谷はこう説明する。

「自分たちがボール支配できるのは分かっていましたけれど中、中でやりすぎて、前半の失点のような形になるのが一番怖い。自分がサイドにいれば、相手もかなり気になると思います。他に前で推進力のある選手が出てきていたので、そこに付けてあげることを意識しながらやっていました」

 甲府のボランチ松本凪生はC大阪のアカデミー出身で、柿谷の12年後輩に当たる。松本はこの試合で大先輩とマッチアップする関係だったが、後半の展開をこう振り返る。

「2ボランチが並んでいたので、そこは(甲府のボランチが)ボールを取れる部分だったんですけど、背中に(柿谷)曜一朗くんあたりがいた。そこに後半は特に安部(崇士)選手から斜めのパスが入って、前進されるシーンが増えました。(柿谷は)立ち位置、持ったときのクオリティはもちろんそうですけど、プレスバックや(切り替えの)一瞬のスピードもすごいものを持っています」

 守備力、引き出しの多さ、クレバーさは今の柿谷が持つ強みだ。ラバイン監督が触れたように、リーダーシップも徳島で期待されている部分だろう。彼はC大阪のトップ昇格直後に度重なる遅刻でペナルティを課されたことがあるし、日本のトップ選手になってからもC大阪の華やかな空気を象徴する存在だった。そんな過去から今も“チャラい若者”という偏見を持っている人がいるかもしれない。しかし実際の柿谷は渋いプレーを見せる、頼りがいのあるベテランだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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