8度目のNBAジャパンゲームズが開催 “主役”となった八村塁「ホームだったはずが…」

永塚和志

日本に凱旋(がいせん)した八村への声援は一段と大きかった 【Provided by Rakuten Group】

 1990年から数えて8度目となったNBAジャパンゲームズは大盛況のうちに終了したが、盛り上がりは過去のイベントと比べても最大級だったのではないか。

 日本人初のNBAドラフト指名選手、ワシントン・ウィザーズの八村塁と前年の王者、ゴールデンステート・ウォリアーズという、日本のファンたちにとっては堪らないマッチアップが提供されたからだ。

 その中で、八村に対する注目度の高さは異様なほどだった。9月29日に行われた両軍の公開練習では、取材の機会も設けられたが、無論、最も多くの記者とテレビカメラを集めたのは24歳の八村だった。その人数があまりに多かったため、後方に位置を取った人たちは日本の至宝の声を明瞭に聞くことができなかったはずだ。

「(日本での)NBAゲームは昔からありましたが、日本人選手が加わったことはなかったので、僕みたいにNBAゲームでプレーをして、その存在がすごく近くなってくると、子どもたちや今NBAを目指している人たちにとってすごく良い機会になると思います」

 八村は、そのように話した。

 いつもは独特の雰囲気とリズムで話す男だが、しぐさや表情、声のトーンは少し違った。日本ではウインターカップで三連覇した明成高校(現・仙台大学附属明成高校)時代から全国的な注目を集め、アメリカに渡っても常にメディアやファンからの耳目を集めてきた。同じことを何度も答えねばならないといった理由もあって、八村がメディアへの対応で胸襟を開くことは多くない印象だが、今回のジャパンゲームズの期間中の表情は、総じて柔和だったように思えた。

「あいつに任せておけばいいから、楽なものだよ」

 4320万ドル(約62.5億円)で、今季のNBAで5番目に年俸の高いトップスター、ブラッドリー・ビールも、今回ばかりは「主役」を担う必要がなく肩の荷が降りるといった具合で、このように冗談を飛ばした。

 もちろん、イベントの本番は試合だ。八村のウィザーズとウォリアーズという、日本のファンにとっては珠玉の両軍が、日本のバスケットボールファン、NBAファンたちを非日常空間に誘った。

 カール・マーロンとジョン・ストックトン(ともに元ユタ・ジャズ)、ペニー・ハーダウェイ(元オーランド・マジック)、ケビン・ガーネット(元ミネソタ・ティンバーウルブズ)、ジェームズ・ハーデン(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズ、来日時はヒューストン・ロケッツ)と、これまで多くのスターたちが日本でコートに立ったが、日本出身の八村への声援は、これまででも最も大きなものとなったはずだ。

 八村は、第1戦では25分強の出場で13得点、9リバウンド、第2戦は11得点、10リバウンドと“ダブル・ダブル”をマークした。まだチーム活動開始からまもなく試合勘などの問題もあってか、昨季向上が見られた3Pは不発だった。それでも、初戦ではステフィン・カリーからスティールを奪ってボールにダイブ。第2戦では、無理だと思われた体制からバスケットカウントとなるシュートを決めるなど、満員の観客を沸かせた。

日本でも大人気のステフィン・カリー。会場では八村に負けないくらいの声援がおくられた 【Provided by Rakuten Group】

 しかし、今回のジャパンゲームズが「八村による八村のためのもの」だったかと言えば、そんなことはなかった。ファンの反応や会場で見かけるユニフォームやTシャツを見ていると、ウォリアーズが目当てのファンも相当に多かったように感じられた。

 それも至極当然だ。ウォリアーズは2014-15シーズンから昨季までの8年で6度、NBAファイナルに進出。うち4度王座に戴冠しており、3Pシュートを武器とし、かつ人とボールを動かし続けるクリエーティブなスタイルの中核となるカリー、トンプソンを抱えているからだ。

 2019年のジャパンゲームズも、前年のNBA王者、トロント・ラプターズが来日しているが、今回もウォリアーズというチャンピオンチームを迎えることとなったのは、日本にとっては幸運だった。また、来日以前にNBAのMVPを獲得しているのは同じく2019年のハーデンとラッセル・ウェストブルック(現ロサンゼルス・レイカーズ、当時はロケッツ)のみだったが、今回のカリー(2度獲得)もそこに加わったこととなった。

 カリーとウォリアーズという、長いNBAの歴史においても一時代を築き、今もその強さを誇示し続けるチームを、画面越しではなく生で見られる機会を、日本のファンたちは享受したのだ。

「ホームだったんですよね…。みなさんがけっこう、ウォリアーズを応援してたような…(笑)」

「ステフ(カリー)さんに負けた気がして、ちょっとそこはどうかと思ったのですが…そこはまあまあまあ(笑)」

 日本のファンの声援はどうだったかという質問に、八村はそのように冗談を込めながら返した。日本のバスケットボール選手としてはあまりに突出した力量の持ち主であるだけに、彼があまりに日本を背負いすぎているといった声も聞かれる。彼が日本代表でプレーする際は、そこは如実となる。

 だが今回、自分以外の選手にも脚光が当たったことを八村は存外、喜んでいたのではないだろうか。上のコメントを見ると、そう思えなくもない。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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