連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康が投手目線で解説 村上宗隆&吉田正尚の凄さと「好打者の攻略3カ条」

工藤公康

好打者を抑えるために投手はどう考えるか?

工藤氏は現役時代、どんな方法で好打者を打ち取っていたのだろうか? 【写真は共同】

【インコースの意識づけ】

 村上選手に限らず、打率も長打力も兼ね備えた打者を抑えるには、インコースを意識づけることが大切です。特にインコースの高めをうまく活用することで、打者自身が認識しているストライクゾーンをずらそうと私は考えます。

「ストライクゾーンをずらす」と言うと分かりにくいかもしれませんが、インコース高めは打者にとって体から一番近く、距離が取りづらいコースです。そこに投球して打者がインハイを意識すると、今までその打者がイメージしていた自分の中でのストライクゾーンが、インコース寄りになってきます。そうすることで、今まで対応できていたアウトコースが遠く感じたり、外の変化球に手を出してしまったり、感覚のズレが生まれます。

 打者は最初に、自分の“目”からの情報を元にゾーンを認識して、ストライクとボールの判別や打つ、打たないの判断をします。その打席の中で、意識の変化や感覚のズレが生じると、最初に認識していたゾーンとのずれ、簡単に言うと「目の錯覚」に近い状況に陥ります。そこに投げ分けるコントロールも必要なので簡単なことではありませんが、打者にインコースを意識させることが、好打者を抑えるポイントになるのです。

【軸足を動かす】

 インコースへの意識づけは好打者を抑えるひとつの方法ですが、打者の軸足を動かすことも有効な方法です。

 打者の軸足(右打者なら右足)というのは、「軸」という言葉の通り、バットスイングをする体の中心になります。軸足は、股関節に体重を乗せ、間を作ってタイミングを合わせるために非常に大切な部分です。そのため打者は軸足を動かされることを嫌がります。例えば、好打者と対戦した際、インコースのボール球を投げ、打者がどういった反応をするのかを見ます。しっかりと見極められるほどに打者の調子が良い場合、インコースのボール球を続けるなどして、打者の軸足を動かすように投球をしていきます。先ほど話したように、軸足を動かされることを嫌がるからこそ、打者はインコースを意識せざるを得なくなります。

 意識をすれば、先ほど話したように、ストライクゾーンのずれが生まれやすくなり、結果的に打者のバッティングを崩すことができると考えていました。それでも打者によっては、すぐに自分のストライクゾーンを修正できる選手もいます。同じような攻め方で全員抑えられるわけではないということです。

【相手の動きも見逃さない】

 これまで、好打者への攻め方や組み立てについても話してきましたが、全員が全員この方法で抑えられるわけではありません。打者にも打撃の調子があり、癖や特徴はあるにしても、毎回同じわけではありません。バッテリーの配球や意図を打者も考えて、対策を練ってきます。こちら側がインコースを攻めてくると知れば、その対策を講じるわけです。

 そういった時に、相手のわずかな動きの変化を見逃さないことも、好打者を抑える上では非常に大切です。インコースを狙えば始動が早くなったり、タイミングの取り方に変化が生じたりと、何かしらの反応があります。打者によっては、ネクストバッターズサークルでの素振りや打席でのタイミングの取り方など、わずかな変化が見えてきます。投手は打者のどこを見るのか? 捕手の視点からはどこを見るのか? 様々な視点から見る、考えることで何か新しい発見や気づきもあるかもしれません。

 ときには、相手の性格や背景も考慮しながら、駆け引きをしていくのです。そういった話も次回以降で、データの活用に関連した部分で深掘りしていきたいと思います。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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