“井上尚弥世代”の川浦龍生、橋詰将義の挑戦も「最終章」へ―― 2.14 日本スーパーフライ級王座決定戦

船橋真二郎

嬉しくなかった優勝記念の写真

2月14日、後楽園ホールで日本スーパーフライ級王座決定戦に臨む川浦龍生(左)と橋詰将義 【船橋真二郎】

「うわっ、懐かしい。これ総合優勝したときですよね。懐かしいな」。表情をほころばせ、満面に笑みが広がった。持参した2011年のインターハイの模様を伝える『ボクシング・マガジン』のページを開いて差し出すと、橋詰将義(角海老宝石)は「撮ってもいいですか」とスマホを構え、しばし食い入るように眺め、当時を思い返した。

 2月14日、東京・後楽園ホールで行われる日本スーパーフライ級王座決定戦。拳を交える同級1位の川浦龍生(三迫)と同3位で元東洋太平洋及びWBOアジアパシフィック同級王者の橋詰は、1993年度生まれのいわば“井上尚弥世代”。川浦は高校1年春の選抜準決勝で、橋詰は高校1年夏のインターハイ準決勝で井上と初めて対戦。ともにRSC負けで決勝進出を逃し、それ以降もアマチュア時代の成績は最高3位だった。そんな2人がプロで“日本一”を争う。

 大阪・興国高校3年のインターハイ。橋詰はチームメイトとともに学校対抗でポイントを競う総合優勝を勝ち取った。同校が井岡一翔(志成)、宮崎亮(KWORLD3)、中谷正義(帝拳)らを擁した2006年以来、5年ぶり2度目の栄冠だった。

 が、記念の集合写真には、個人優勝の高田侑典(現・興国高校監督)、準優勝の正木脩也(帝拳、引退)、ほか全員が視線をカメラに向けている中で、うつむいている選手がひとりだけいる。苦虫を噛みつぶしたような表情にも見える。それが橋詰だった。

「いや、覚えてますよ。井上に倒されたときですよね。めっちゃテンション下がってて、全然、嬉しくなかったんですよ、このときは(笑)」

井上尚弥と闘ったからこそ……

川浦、橋詰ともに井上の巧さ、強さを体感したことで、自分のボクシングが磨かれたと語る 【写真は共同】

 最後のインターハイ2回戦。橋詰にとっては待望の井上との2年ぶりの再戦だった。初対戦は3回途中、クリーンヒット1発で1ポイント入る当時の採点方式で15ポイント差をつけられ、ルールにより自動的にストップ。野球で言えばコールド負けに終わっていた。

「次は絶対にやってやる」。もちろん、全国制覇が最大の目標だったが、必ず立ちはだかるはずの“井上・打倒”を胸に練習に打ち込んだ2年間でもあった。井上には巧さも感じたものの、最も警戒すべきはパンチ力と感じた。当時から身上でもあった、打たせず打つボクシングに徹底的に磨きをかけた。

「1ラウンドはね、僕が取ってたんですよ」。ところが2回、ガラリと戦い方を変えてきた。猛然と攻めてきた井上に押し込まれた。最後は倒され、RSC負け。「エグかったですね。2ラウンドは」。井上の強さを引き出したのは橋詰の巧さだったかもしれない。が、これがアマチュア時代に喫した唯一の倒されたダウン。悔しさは学校対抗の総合優勝などで相殺できるはずもなかった。

「もう、過去の話なんで」。橋詰は笑った。「超えたかったけど、どうしても超えられなかった壁ですね」。それでも、井上を超えようとした日々がボクサーとしての成長につながった。「それは間違いないから」と言った。

 川浦も同じような経験をしていた。「勝てば、優勝できる」と意気込んだ井上との初顔合わせ。「1ラウンドの感じでは『あ、いける』と思いました。何とか(攻撃を)かわして、苛立たせることができたと思ったんです」。1回終了後のインターバル。リングサイドから大きな声が飛んだ。

「『自分のボクシングをしろ!』って、井上選手のお父さん(井上真吾トレーナー)から」

 一転、圧力を強め、明らかに倒しにきた井上を迎撃しようと伸ばした左に左フックを合わされた。その一撃で大きなダメージを負った。そのまま打ち込まれ、スタンディングカウントが入った。最後は右でバランスを崩し、腰砕けのようになったところでストップされた。

「最後の右は押されたような感じだったんですけど、その前の左フックで効いちゃってました」。これがプロ・アマ通じて唯一のストップ負けになる。「すげえ悔しかった記憶があります」。同時に身をもって一発の怖さを思い知った。井上は「スピード、技術」も印象的だったが、それ以上に「パンチがめっちゃ痛くて。今までで一番、パンチがありました」。

「この選手に勝って、一番になる」。当時からディフェンスには自信があったが、ボディワークでかわす、ステップワークで外すのが主体。ガードの意識が高まった。「さらに防御スキルを上げてもらう経験になりました」。対戦は1度きりだったが、井上戦を教訓に土台をつくった高校時代を川浦は今、こう捉えている。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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