届け、天国で見ている亡き友へ。全身全霊を込め、その右足を振り抜く

【©ジャパンラグビーリーグワン】

ボールをセットして斜め45度に5歩下がる。まずはボールを見て深呼吸し、次に右ポストの頂点を見上げてまた深呼吸。そして、ボールに視線を戻して最後にもう一度深呼吸。宮嵜隼人は丁寧にルーティンをこなし、ボールを空高く蹴り上げてゴールを決めた。

「もしかしたら、あいつが見てくれていたかもしれない」

中国電力レッドレグリオンズの宮嵜は、前々節のヤクルトレビンズ戸田(以下、L戸田)戦から腕に喪章を巻いてプレーしている。友人が事故で亡くなったことを知ったのは、L戸田戦の2日前のことだった。

「知らせを受けたときは『嘘やろ』と思ったし、実感がまったくなかった。だから試合にはいつもと変わりなく臨めたと思います。でも、知らせを聞いたときから次の試合で活躍をしようと決めていました」

高校のクラスメートだった友人とは卒業後に別の大学に進んだが、交流は続いていて仲がよかった。「いつか試合を見に行くわ」。友人はいつも言っていたが、その約束が果たされることはなかった。

だからこそ、宮嵜は亡き友への思いをラグビーで表現したかった。L戸田戦では2トライを含む全26得点を挙げて、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝く活躍で2連勝に貢献。トライを決めた直後は、普段はクールな24歳が力強いガッツポーズで熱い気持ちを見せた。

「僕が頑張っているのが届けばいいなと思ってプレーしていたし、この試合に懸ける思いがこれまでよりも格段に強かったので、トライという形で示せたのがすごくうれしかった。チームとしても勝ちに近づいたし、『活躍してやるぞ』という自分の思いにも近づいたので、それがガッツポーズに出たと思います」

高精度を誇るキックではコンバージョン2本とペナルティゴール4本の計6本をすべて成功。持ち味を存分に発揮して躍動した。

「キックのときは蹴ることに集中しているのでまったく考えていなかったけど、決まったあとに『もしかしたらあいつが見ていて、うまく蹴れたのもあいつのおかげかも』みたいなことは頭をよぎりました」

L戸田戦の数日後、亡くなった友人に最後のお別れをした。これから友人のぶんまで頑張るために今後も腕に喪章を巻いて戦う。

「今季は『あいつに見てもらえるように』という思いを持って試合に臨んでいきます。それが重荷になることはないし、選手としてはいつもどおり勝ちを目指して100%集中して試合に取り組んでいるので。ただ、いい結果や試合だったら、『あいつのおかげかもな』、ぐらいに捉えようと思っています」

完敗した前節はキックをなかなか決められずに悔しい思いをした。今節も引き続き先発出場するスタンドオフは、「まずは自分がやるべきことをやる。キックはずっとこだわってやってきたので自分の100%を出さないといけない」と気を引き締める。

亡き友に届けたいのは躍動する姿。宮嵜は勝利のために右足に全身全霊を込める。

(湊昂大)
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