井上尚弥、拳四朗に“準決勝敗退”の川浦、橋詰が約13年越しで日本一争う 2.14 日本スーパーフライ級王座決定戦

船橋真二郎

井上尚弥と出会った高校1年の夏

バンタム級で世界4団体統一を果たした井上尚弥とライトフライ級2団体統一王者の寺地拳四朗 【写真は共同】

 高校1年のインターハイ決勝で“日本一”を争っていたかもしれない同い年のサウスポー2人が時を経て、プロのリングで日本タイトルを懸けて戦うことになった。2月14日、東京・後楽園ホールで行われる日本スーパーフライ級王座決定戦。同級1位の川浦龍生(三迫)と3位の橋詰将義(角海老宝石)は2009年夏のインターハイ準決勝で、それぞれ現在の日本を代表する世界チャンピオンに行く手を阻まれた。

「2ラウンドまでは僕がリードして、(最後の)3ラウンドに逆転された」。徳島市立高校1年の川浦が小差のポイントで惜敗した相手は、奈良朱雀高校3年の寺地拳四朗(BMB)だった。昨年11月、無敗の世界2階級制覇王者、京口紘人(ワタナベ)との統一戦を7回TKOで制したWBAスーパー・WBC世界ライトフライ級2団体統一王者である。

 準々決勝で2021年開催の東京五輪でフライ級銅メダリストとなる岐阜・中京高校1年の田中亮明を退け、勝ち上がった大阪・興国高校1年の橋詰が拳を交えたのは、神奈川・新磯高校(当時)の井上尚弥(大橋)。1年生ながら前評判の高かった優勝候補を相手に3回1分39秒で初のRSC(レフェリーストップ・コンテスト)負け。昨年12月、バンタム級で世界主要4団体統一を成し遂げたモンスターに苦杯をなめさせられた。

 体重45kg以下の最軽量モスキート級(翌年度からピン級)の決勝は、井上が3回1分11秒で寺地をストップし、全試合RSC勝ちで優勝を果たす。自身がポイント負けを喫した最上級生を圧倒する姿を目の当たりにし、「あの選手に勝たないと日本一になれないんだなと思った」と川浦は気を引き締め直した。1年生から全国制覇の「自信があった」と振り返る橋詰は、その実力の高さを肌で感じ、「次こそは」と悔しさを噛みしめた。

 川浦は小学5年からアマチュア専門のチカミジムで。橋詰は中学1年からプロの井岡ジムで。ともに地元のボクシングジムでグローブを握ったが、ボクサーとしての真のスタートは、日本一を目指して決意を新たにした13年6ヵ月前の夏だったと言えるのかもしれない。

果たせなかった“日本一”への思い

「まずは日本一になって、さらに上を目指したい」と川浦 【船橋真二郎】

 インターハイを皮切りに国体、選抜と高校1年で3冠を果たした井上尚弥を頂点に実力者たちがしのぎを削り合った世代だった。川浦も1年の春の選抜ライトフライ級の準決勝で超高校級の力を味わった。大会直前のアジアユースで銅メダルを獲った井上の前に2回1分44秒RSC負け。橋詰とともにアマチュア時代の最高成績は3位だった。日本一に懸ける思いは人一倍強い。

「日本のベルトを獲って、今までやってきたことをひとつの形にしたい。ここで勝って、まずは日本一になって、さらに上を目指したいと思います」

 穏やかな口調の中にも意志を込めた。主将を務めた中央大学を卒業後、川浦は2016年11月にプロ転向。一昨年12月には無傷の9連勝(6KO)で、満を持して日本タイトル挑戦権を懸けた挑戦者決定戦に臨んだ。対戦相手の久高寛之(仲里)は、国内外で4度も世界に挑むなど、経験豊富な歴戦の元日本王者。持ち前のテクニックとスピードで序盤戦を制しながら、老かいな技に絡め取られた。1-2と割れた僅差の判定を逆転で落とした苦い記憶は、今も鮮明に残る。

「(久高には)倒されるとか、怖さはなかったんですけど、僕の嫌がったところを徹底して突いてきて、ペースを持っていかれてしまいました。最後まで諦めない気持ちをすごく感じましたね。僕に足りなかったのは勝利に対する貪欲さ。次は絶対に勝つという気持ちを見せます」

「日本一は高校のときからの夢。やる気でいっぱい」と橋詰 【船橋真二郎】

「もちろん、プロとアマチュアは違いますけど、日本一は高校のときからの夢でもあったんで、ここで叶えられると思ったら、やる気でいっぱいになりますよ」

 クールな物言いにも内にある熱さがにじみ出る。橋詰は東洋大学を1年で中退し、2013年9月にプロデビュー。翌年には全日本新人王に輝いた。昨年2月には20戦無敗(18勝11KO2分)で東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王座の2冠を懸けた決定戦に勝利。が、4ヵ月後、元世界3階級制覇王者、田中恒成(畑中)を挑戦者に迎えた防衛戦で5回TKO負けを喫し、2本のベルトを失った。

 2018年12月、当時の日本王者、奥本貴之(グリーンツダ)へのタイトル初挑戦は引き分け。あと一歩で獲り逃したベルトに「思い入れはあるし、必ず獲る」と心に誓ってきた。長いリーチを利して、懐の深さを巧みに創出、独特の当て勘もある。持ち味を発揮し、好スタートを切った田中戦は「1(ラウンド)から飛ばし過ぎた」と振り返る。

「結構、(パンチが)当たったし、一気に自分のペースに持っていっちゃおうって感じで、冷静さに欠けたところがあった。次は10ラウンドやるつもりで冷静に獲り切ります。(田中は)こっちのスキをしっかり見抜いて、まとめてきたんで、さすが世界のトップクラスやな、と思いましたけど、超えられないとは思わないんで。あの敗北をバネに、また頑張ろうという気持ちです」

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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