「自分はファイター」島田高志郎が柔らかな表現の奥に秘めた闘志 15歳で渡ったスイスでの鍛錬が実った全日本選手権
ジャンプコーチの指導で飛躍した今季
島田は「スケートって素敵」と思わせる演技を目指すと語る 【写真:坂本清】
その時島田が帯同していたのが、ジャンプ指導に定評のあるジスラン・ブリアンコーチだ。羽生結弦の指導もしていたブリアンコーチは、今季オフからトロントを離れフリーとなったことで、ランビエールコーチの門下生にジャンプを教える時間が多くなったと伝えられている。島田のジャンプが安定した背景には、ブリアンコーチの指導もあるだろう。
グランプリシリーズでの島田は、第1戦・スケートアメリカではショートで2回転倒したのが響いて9位に終わったが、第4戦・イギリス大会では4位と持ち直している。この全日本では、課題である4回転ジャンプを克服したかどうかが問われるところだった。
全日本・ショートでの島田の演技は、4回転サルコウの着氷が乱れ、4回転トウループには4分の1回転不足がついたものの、大きなミスなくまとめた。島田がつけたショート2位という位置は、好発進であると同時に表彰台への意識が芽生えるポジションでもある。フリーに臨むにあたり、島田は「意識しないようにと言ってはいたのですが、やっぱりどうしても気になってしまうもので、その自分も受け入れることにしました」と振り返っている。
「欲が出るということはアスリートにとってすごく大事なものだと思いますし、その自分を殺してしまっては本来の自分ではないなというふうに感じたので。『しっかり戦いにいくぞ、自分はファイターだぞ』と、自分に言い聞かせるというより、それを感じながら滑りました」
ランビエールコーチは、フリーのリンクに入ろうとする島田に「自信を持ってミッションをこなしてこい」と語りかけている。
「やるべきミッションは、ここであなたのスケートを存分に発揮することだ」
恩師の熱い言葉を受けてスタート位置に立った島田は、冒頭に跳んだ4回転サルコウの着氷で手をついている。しかし、2本目のジャンプとなる4回転トウループを決めると、続くトリプルアクセル+3回転トウループも成功させた。島田は「最初のサルコウが少し失敗した後も、その2本はかなり練習していたジャンプでもありますし」と振り返っている。
「(ショートの翌日となる)昨日から、自分のペースを守りながら最高の練習ができていたと思うので、自信はありました」
島田は後半に入ってからもトリプルアクセルからの3連続ジャンプを決めるが、3回転フリップを予定していた次のジャンプが1回転になってしまった。しかし続く3回転ルッツ+ダブルアクセルのジャンプシークエンスは成功させる。演技を終えた島田は胸に手を当て、万感の表情で天を仰いだ。
最終滑走の宇野昌磨を残し、島田は暫定1位に立つ。キスアンドクライで喜びを爆発させた島田は、ミックスゾーンでは穏やかな表情を見せていた。
「すごく嬉しいのですが、まだ実感が湧かないです。順位が出た瞬間は喜びが最高点に達していたのですが、なんとなく今は、自分の演技の反省点の方が出てきているなと思います」
「ここまで、たくさんの方々に支えていただいて。怪我や日々の練習での悩みがあり、どの選手もそうだと思うんですけれども、決して簡単なものではないので。その中で頑張り続けた結果のメダル、やっと結果を出せたというのは、本当に周りの方々に感謝したいですし、自分の頑張りにも感謝したいなと思っています」
イギリス大会を迎える段階で「試合に向かうまでの気持ちの持ち方、どうやって戦いに、攻撃的にいけばいいのかというものがだんだんつかめてきてきた」という島田は、そこでの成功体験をふまえ、この全日本にも同じメンタルで臨んだという。しかし「この全日本前もそうですが、自分自身結果を求めてスケートをするのがあまり似合わないなということが分かりました」とも語っている。
「自分がスケートをやっている理由は、スケートが好きで『スケートって素敵だな』と思ってもらえる演技をすることだったので。それにただただ結果がついてきた、今回は運が良かったなというふうに思っている感じです」
全日本2位という結果を出した島田は、初のシニアでのチャンピオンシップとなる四大陸選手権(2023年2月、アメリカ・コロラドスプリングス)出場を勝ち取った。観る者を幸せにする島田ならではの演技ができれば、そこでも必ず結果はついてくるはずだ。