連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第20話「恩師のカミングアウト」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 丈一とグーチャンが海浜幕張で会食する2日前――。
 玉城迅はフィンランド経由の便でパリ=シャルル・ド・ゴール空港に到着した。日本代表のホテルから直接来たため、荷物はバックパックひとつのみ。機内食だけでは物足りず、玉城は売店でクロワッサンを買ってかぶりついた。
「このバターが焦げたこうばしさ……パリに戻って来たって感じがするわ」

 玉城がパリ行きを決意したのは、前半15分で交代させられたチリ戦直後のことだ。
 ロッカールームで誰とも視線を合わせたくなく、頭からタオルをかぶっていたとき、秋山大監督からこう告げられた。
「事故のショックもまだあるだろう。3日間のオフを与える。中国戦までに戻ってくれれば大丈夫だ」
 表面的には「戻ってきてほしい」と言っているが、ほぼ戦力外通告だ。必要とされていないことを瞬時に悟った。

 玉城は自分でも代表を去るべきだと自覚していた。
 不用意な一言が加藤慈英と松森レオのケンカを引き起こし、交通事故の原因になった。2人は謹慎処分になってしまう。そして試合でミスを連発――。まだ代表は早すぎたのだ。
 玉城はロッカールームを出て通路を抜けると、サポーターと目が合わないようにうつむいたままバスに乗った。
 チームバスが事故にあって観光バスが用意されたため、ガラスがスモークになっていない。サポーターからの視線が突き刺さる。
 もう大学に帰ろう……。
 そう思った瞬間、玉城は窓の外に目を奪われた。
 Tamashiro 21

【(C)ツジトモ】

 自分のユニフォーム着ている男の子がいる!!
 その少年は父親と手をつなぎ、21番の背中をこちらに向けたままバスから遠ざかっていった。
 なぜわざわざ自分を?
 玉城は全身から勇気が湧き上がってくるのを感じた。
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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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