終焉を迎えたリカルドと浦和レッズの2年間 濃密だった22年とJ1最終節の意味

飯尾篤史

【(C)URAWA REDS】

 10月29日の日産スタジアムで浦和レッズの選手たちがアップする姿を眺めながら思い出したのは、同会場で行われた2月12日のゲームである。

 澄みわたった青空の下、ディフェンディングチャンピオンの川崎フロンターレ相手に2-0と完勝し、FUJI FILM SUPER CUP 2022のタイトルを勝ち取った。

 2点をゲットした江坂任の動きはキレキレで、新加入の岩尾憲のゲームコントロールにも唸らされた。伊藤敦樹の左サイドハーフ起用もハマったし、その伊藤が左サイドハーフとボランチのふた役をこなしたのも見事だった。そして、アレクサンダー ショルツは相手のエースを完璧に封じ込めた。

 あの日、レッズの周りは笑顔に満ち溢れていた。

 それから8か月半が経ち、キックオフされた目の前の試合では、横浜F・マリノスに次々とゴールを割られていった。相手は優勝の懸かった重要なゲームとはいえ、この差はいったい……。

 なぜ、こうなってしまったのか。

 どこでボタンをかけ違えてしまったのか。

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 沖縄でのトレーニングキャンプ終盤に負傷者が増えたうえ、シーズン開幕直前に新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し、しばらくメンバーを組むことすら四苦八苦した。

 その序盤で不用意なファウルから退場者を出し、勢いに乗れなかったことも自分たちの首を絞めたし、3年計画の3年目、優勝を目指すということで、発展途上に過ぎないチームが過度のプレッシャーを背負ったことも苦しんだ要因だろう(ナイーブと言えばそれまでだが)。

 いや、そもそもレッズの歴史や文化を考えたら、リカルド ロドリゲス監督を招き、ポジショナルプレーの概念を身につけ、スペイン式のポゼッションスタイルに挑戦するという選択自体が間違っていたのかもしれない……などと言い始めたらキリがない。

 いずれにしても、今季のレッズが3大タイトルを逃したことは紛れもない事実だ。

 ただ、苦しんだはずの1年を振り返ってみると、意外にもポジティブなシーンがたくさん思い浮かんでくる。

 FUJI FILM SUPER CUPはその筆頭だろう。3月19日のジュビロ磐田戦後半から登場したダヴィド モーベルグがその4分後に相手DF3人に囲まれながらゴールを奪った衝撃や、5月18日の横浜FM戦の後半だけでキャスパー ユンカーがハットトリックを達成した衝撃は、今でもはっきりと覚えている。

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 6月18日の名古屋グランパス戦で伊藤とのワンツーから仕留めた関根貴大のゴールは鮮やかだったし、7月10日のFC東京戦で江坂が見せたロングランからの大久保智明へのアシストも素晴らしかった。7月16日の清水エスパルス戦の明本考浩のゴール(実際には相手のオウンゴール)に至るまでの崩しは秀逸だったし、岩尾のダメ押しゴールで3-1と突き放した7月30日の川崎戦は、チームが勝負強さを身につけたことを感じさせた。

 勝ち切れない試合ばかりだったにもかかわらず、なぜ、こんなにもポジティブなシーンがたくさん浮かんでくるのか。

『Football LAB』によると、シュート数はリーグ3位、チャンス構築率はリーグ2位! どうりで、好シーンが印象に残っているわけだ。

 そして、なんと言っても今シーズンのハイライトは、埼玉スタジアムで声出しが解禁された8月10日の名古屋グランパス戦から、6-0の大勝を飾った8月13日の磐田戦、8月19日に開幕したAFCチャンピオンズリーグ2022ノックアウトステージまでの流れだろう。

 名古屋戦では北ゴール裏から奏でられるチャントと浦和レッズコール、スタジアムに鳴り響く手拍子に鳥肌が立ちっぱなしだった。心を揺さぶられ続けたせいで、試合後の『We are Diamonds』で涙を堪えるのに必死だった。

 PK戦までもつれ込んだACL準決勝での全北現代との死闘では、最後に江坂がゴールネットを揺らした瞬間、その場で立ち上がり、思わずガッツポーズをしてしまった(記者としてはあるまじき行為だ)。

 久しぶりに、レッズサポーターの底力、真の姿を見た思いだった(入場制限があったわけだから、真の姿でないことは分かっているが)。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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