プロスケーター・羽生結弦の覚悟 「観たいな」と思う演技を極めたい
『SEIMEI』をミスなく滑り切るという目標
気迫がこもる羽生の練習 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
多くの人の心を震わせた『SEIMEI』について、羽生は「やっぱり、自分にとっての代表作の一つでもあります」と語る。「平昌オリンピックのイメージが強い」と羽生自身が感じているからこそ、プロとして始動した今、完璧に滑ることを自分に課したのだ。
「自分で、会見でも『今が一番上手い』って言っていましたけれども、あの頃ちゃんとノーミスし切れなかった平昌オリンピックのフリーを、今この場所でノーミスで滑って『あの時よりも上手くなっているんだ』と証明したい、という気持ちが強くありました。そういう意味でも、平昌オリンピックの時の(ジャンプ)構成でやらせていただきました」
この日、羽生は『SEIMEI』を3回続けて滑っている。1回目の通しで、2本目の4回転サルコウの回転が抜けた時に声を出して悔しがった羽生は、曲が終わるとまたすぐにスタートのポーズをとった。2回目の通しでは2本目の4回転トウループの着氷が乱れ、また悔しそうな様子をみせた時、失敗のない演技をするまで滑り続ける羽生の意志が伝わってきた。3回目の通しでは4本の4回転、1本のトリプルアクセルを含むすべてのジャンプを決め、最後まで滑り切った羽生は、報道陣の拍手の中で「ありがとうございました」と口にしている。
羽生自身の希望で実現したという、計25の媒体ごとに1対1のインタビューに応じる個別取材で、筆者は最後の取材者として話を聞いた。芸術面に注力する従来のプロスケーター像を覆そうとしている羽生の挑戦を、具体的にどんな形で見せていきたいか問うと、羽生は「今日も、すごく緊張感のある演技をしていたと思うんですけど」と言い、言葉を継いだ。
「そういったことを、これからもどんどん続けていきたいなと思っていて。確かにそれは、点数としてつける人がいなくて、実際にその評価というものが“観たいか・観たくないか”に分けられると思うんですけれども、“観たいな”と思う演技を、アマチュアよりもより一層極めたいなと思います。やっぱりそれは、高難易度なジャンプと共に存在すると思うので。表現面ももちろん大事なのですが、やっぱり技術面の方が『上手くなったな』ってすぐわかる要素ではあるので、そこも大切にしたいなと思っています」