プロスケーター・羽生結弦の覚悟 「観たいな」と思う演技を極めたい

沢田聡子

『SEIMEI』をミスなく滑り切るという目標

気迫がこもる羽生の練習 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 プロ転向を表明した記者会見から約3週間後となる8月10日、羽生結弦は練習拠点であるアイスリンク仙台で“SharePractice”を行った。練習の様子をメディアに公開すると同時にYouTubeでも生配信する、新しい試みだ。プロスケーターとしてのスタートとなるこのイベントに、羽生は目標を持って臨んでいた。2015年には世界最高得点を更新し、連覇を果たした平昌五輪で滑った名プログラム『SEIMEI』をミスなく滑り切ることだ。

 多くの人の心を震わせた『SEIMEI』について、羽生は「やっぱり、自分にとっての代表作の一つでもあります」と語る。「平昌オリンピックのイメージが強い」と羽生自身が感じているからこそ、プロとして始動した今、完璧に滑ることを自分に課したのだ。

「自分で、会見でも『今が一番上手い』って言っていましたけれども、あの頃ちゃんとノーミスし切れなかった平昌オリンピックのフリーを、今この場所でノーミスで滑って『あの時よりも上手くなっているんだ』と証明したい、という気持ちが強くありました。そういう意味でも、平昌オリンピックの時の(ジャンプ)構成でやらせていただきました」

 この日、羽生は『SEIMEI』を3回続けて滑っている。1回目の通しで、2本目の4回転サルコウの回転が抜けた時に声を出して悔しがった羽生は、曲が終わるとまたすぐにスタートのポーズをとった。2回目の通しでは2本目の4回転トウループの着氷が乱れ、また悔しそうな様子をみせた時、失敗のない演技をするまで滑り続ける羽生の意志が伝わってきた。3回目の通しでは4本の4回転、1本のトリプルアクセルを含むすべてのジャンプを決め、最後まで滑り切った羽生は、報道陣の拍手の中で「ありがとうございました」と口にしている。

 羽生自身の希望で実現したという、計25の媒体ごとに1対1のインタビューに応じる個別取材で、筆者は最後の取材者として話を聞いた。芸術面に注力する従来のプロスケーター像を覆そうとしている羽生の挑戦を、具体的にどんな形で見せていきたいか問うと、羽生は「今日も、すごく緊張感のある演技をしていたと思うんですけど」と言い、言葉を継いだ。

「そういったことを、これからもどんどん続けていきたいなと思っていて。確かにそれは、点数としてつける人がいなくて、実際にその評価というものが“観たいか・観たくないか”に分けられると思うんですけれども、“観たいな”と思う演技を、アマチュアよりもより一層極めたいなと思います。やっぱりそれは、高難易度なジャンプと共に存在すると思うので。表現面ももちろん大事なのですが、やっぱり技術面の方が『上手くなったな』ってすぐわかる要素ではあるので、そこも大切にしたいなと思っています」

1/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント