初優勝の渡辺倫果、復活の歩みを進める紀平梨花 20歳の二人がスケートカナダで見せた、それぞれの「強さ」

沢田聡子

拠点を置くカナダで見せた、紀平の価値ある滑り

すべての要素に加点がついた紀平のフリー 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 20歳の紀平梨花にとって、カナダは現在の練習拠点である。名伯楽ブライアン・オーサーの指導を受けながらスケートを磨いている紀平は、昨季は右足首の疲労骨折のため全休を余儀なくされた。活躍を期待されていた北京五輪の代表選考会である全日本選手権にも出場できなかった紀平は、しかし今季、少しずつ復活への道を歩き始めている。

 復帰試合となった9月の中部選手権では、怪我の治療を優先し難度を落とした構成のショート・フリーを滑り抜き、全日本選手権への出場権を獲得。フリーのみで競う10月のジャパンオープンでは構成を少し上げ、滑りにも力が戻ってきていた。

 そしてオーサーコーチを帯同して臨んだスケートカナダでは、これまでの2試合で挑んでこなかった3回転ループを跳ぶ決断をしている。半回転多いアクセルと右足首への負担が大きいルッツ・フリップを除く、3種類の3回転ジャンプを構成に入れたのだ。

 ショートの冒頭で跳んだダブルアクセルは、代名詞でもあるトリプルアクセルにつながるような美しい跳躍だった。ただ他の二つのジャンプで着氷が乱れて点数は伸びず、ショートは8位発進となっている。

 しかしフリーでの紀平は、3種類5本の3回転を組み込んだ『タイタニック』をクリーンに滑り切る会心の演技をみせる。すべての要素に加点がつき、演技構成点ではトップ、またフリーのみの順位は3位だった。総合5位という順位以上に、完全復活が近づいていることを感じさせる試合となった。

手応えを得たフリー

 フリーを滑り終えてガッツポーズをした紀平が感じていたのは、思い通りに滑ることができた喜びだった。

「フリーは『練習してきたことは全部出したい』という思いが強かったので。いつもやってきた通りの構成で、しっかりと思い描くような演技ができたので、すごく嬉しかったです」

 試合のタイミングに合わせられず疲れが出たというショートの反省を生かし、練習やケア、食事や睡眠を調整した結果、フリーでは「すべてをちゃんといいところに持っていけた」という手応えを得ていた。振付を担当したデイビッド・ウィルソン氏にブラッシュアップをしてもらっており、終盤に連続で入るコレオシークエンスとステップシークエンスも、丁寧に滑ることができたという。

 ただ「体力面でもベストにはまだまだだなと思っている」と現状を見据える紀平は、次戦のフィンランド大会に向け「最後のジャンプでも、一本目のジャンプと同じような感じで跳べるような状態にしていきたい」と語る。

「ジャンプをたくさん跳ぶのは(患部への)負担になるかもしれないので、それよりも体力面の強化など、できることをしっかりとたくさん積んでいきたいと思っています。練習量も毎日1時間だったのをもう一枠増やしてみるとか、少しずつ練習量も上げてトレーニングも増やしていきたいです。足のケアも気にしつつなのですが、良くなってきているとは思っているので、また検査もしつつ。構成も、また新たなジャンプを徐々にやっていけたらいいなとは思っています」

 2021年9月に移籍したトロントの名門・クリケットクラブで、紀平はジャンプが跳べない時期にも地道にスケーティングを磨いてきた。ようやくジャンプを取り戻しつつある今、会心の『タイタニック』を拠点とする国で披露できたスケートカナダは、紀平にとって大きな意味を持つ試合となっただろう。

 深いゆかりがある土地・カナダで、渡辺と紀平は大切な試合を戦った。それぞれが強さを磨く日本女子は、さらにハイレベルな競り合いになっていきそうだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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