「ワールドカップは引きずっていない」 オールラウンダー・宮澤夕貴が“エース”としてチームをけん引する

永塚和志

女子バスケはワールドカップを終え、Wリーグが開幕した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 チームとしても個人としても無残な結果となったワールドカップの記憶がまだ新しい中での試合だったが、取材エリアでの宮澤夕貴の表情と声のトーンは存外、明るかった。

「チームに戻った時点でワールドカップを引きずる感じはなくて。でもあの出だしだったので引きずっているのかなと多分、見られていたと思うんですけど(笑)」

 宮澤の所属する富士通レッドウェーブは21日、大田区総合体育館でWリーグ・2022-23シーズンの開幕戦を迎え、東京羽田ヴィッキーズを77-73で下した。試合の目玉は今年、WNBAデビューを果たした町田瑠唯だったが、散々な結果となったワールドカップが終わって自軍に戻った宮澤のプレーぶりもまた、注目だった。

 開幕戦特有の固さも相まって、自身が言うように前半の宮澤のプレーは精彩を欠いた。が、後半になると得意の3Pシュートを2本決めるなど、別人のような出来で、最終的には両軍トップの25得点をマークし、試合のMVPに選ばれた。

 試合前半。ボールを触ることすらままならない状況が続いた宮澤だったが、相手がスイッチ(ディフェンスがマークする相手を交代して守ること)で守ってくるところを逆手にとって「インサイドでもらった時には積極的にアタックしようという気持ち」(宮澤)でプレーした。代表でもコートを共にしている町田とのコンビネーションからの得点も、効果的だった。

代表では苦い結果になったが、今シーズンはキャプテン・エースとしてチームをけん引する宮澤(左) 【Getty Images】

 金メダル獲得を目指して臨んだワールドカップだったが、日本代表は1勝(4敗)に終わり、予選ラウンドで敗退するという屈辱を味わった。東京オリンピックではチーム2位の平均11.5得点を挙げ、3P成功率は43.2%を記録した宮澤にいたっては、平均0.4得点で11本放った3Pをすべて外すという、信じられない結果に終わった。

 自軍では、新天地・富士通移籍初年度となった昨シーズン、チームはファイナルへ進出したものの、宮澤個人は平均9.5得点と6年ぶりに2桁を割り、3P成功率はENEOSサンフラワーズ所属時代の前年から15%以上下回る、25.6%という数字に終わった。

 今シーズンは、篠崎澪(引退)やオコエ桃仁花(ギリシャのチームへ移籍)ら主力選手が抜けたチームで高校時代以来だというキャプテンに就任。昨シーズンやワールドカップでの低調ぶりからの復活というところも含めて、29歳の宮澤にとって挑戦の年となる。

 ENEOS時代や日本代表では3Pシュートの印象が強い彼女だが、本来はインサイド、アウトサイドで得点の取れるオールラウンダーだ。渡嘉敷来夢や高田真希らのいるENEOSや日本代表ではアウトサイドから得点を狙う機会が多かったが、富士通ではリバウンドも含めたリング近くでのプレーも求められる。

 3Pシューターからの脱却、と言うと大仰かもしれない。が、この試合ではフェイダウェイのミドルシュートも見せてもいる。外からだけではなく、バラエティーのある得点パターンを、今シーズンの宮澤からは見られそうだ。

「(オコエの移籍などで)得点の部分でだいぶマイナスがあります。自分はこれまでインサイドでやらなくてよかったんですけど、そうはいかなくなりましたし、待っているだけじゃチャンスは来ないというところですよね」(宮澤)

 22日の東京羽田との2戦目(81-50で富士通が勝利)でも、宮澤は再び両軍最多の22得点をたたき出した。

 思えば、Wリーグでも日本代表でも、宮澤は渡嘉敷や高田といった選手たちの脇役だった。だが今シーズンの彼女は、初めて「エース」としてチームを引っ張る立場となった。得点のキャリアハイは2016-17の平均14.5点だが、今シーズンはその数字を超えてくる可能性はかなりありそうだ。

 富士通のBTテーブスヘッドコーチは、オフの間も代表活動に従事していた宮澤が疲労を抱えながら戦っていると慮ったが、他方、どれだけチームのプレーぶりが悪くても自身を見失わない彼女について「俺よりも冷静」(同HC)だと絶大な信頼を示した。

「あの人(宮澤)はね、やるべきことを十分、理解していますよ。あんまり彼女に対して怒る必要がない。だから今日も怒るというよりは『何してんの』という感じですね。『ゴール下なのになんでそこでフェイダウェイするの』。そういったこと。怒るというか、厳しく、ですね。あの人は俺よりも冷静に考える人だから、すごく良いですよ。間違いなくキャプテンです」(テーブスHC)

 キャプテンとして、エースとして。2022-23シーズンの宮澤が負う責任は、間違いなくこれまでで最も重たいものとなる。
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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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