連載:女子バスケがいまアツイ!! 〜歴史的シーズンのクライマックスを堪能する〜

「小さくてもできる」を証明してきた町田瑠唯 五輪で進化しWNBAに挑戦

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4月17日のWリーグ・プレーオフファイナルで献身的に戦った富士通レッドウェーブの町田瑠唯(右) 【写真は共同】

 東京五輪での銀メダル獲得に沸いた日本女子バスケ界に2021-22シーズン、ビッグニュースがもう一つが舞い込んだ。町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)のWNBA挑戦である。関係者の間ではすでに高い知名度と実績を誇っていた彼女が、今季さらなるステップアップを果たした陰にあるものとは――。幼少時代のエピソードとともに、東京五輪、Wリーグを通しての進化の軌跡をたどる。(文/三上太)
 試合終了のブザーが響き渡る。それと同時に富士通レッドウェーブの町田瑠唯はユニフォームで顔をグッと拭った。71-87。リーグ史上初、国立代々木競技場第一体育館で行われたWリーグ・プレーオフファイナルで、富士通の14年ぶりの優勝はならなかった。連覇を達成し、歓喜の輪を作るトヨタ自動車アンテロープスの選手たちの脇を抜け、町田はトヨタ自動車のベンチへと挨拶に行く。そのまま審判、ゲームオフィシャルズにも一礼をすると、再びユニフォームで涙を拭いながら、ベンチへと戻っていった――。

謙虚でシャイ、しかしコートの中では…

 町田にとっての2021-2022シーズンは、思いがけず自らの殻を破っていくシーズンだった。事の発端は東京五輪にある。バスケットボール女子日本代表のメンバーとして史上初の銀メダルを獲得しただけではなく、自身も準決勝のフランス戦で18アシスト、オリンピックでの1試合アシスト記録を更新。日本のみならず、世界を沸かせた。

 身長の大きさがアドバンテージになり得るバスケットにおいて、162センチの町田は、むろん小さい。しかし彼女のプレーぶりからはその不利をまったく感じさせない。柔よく剛を制す。身体能力で劣るといわれる“小さな”日本人が、“大きな”外国人選手を翻弄する町田の活躍に、日本のスポーツファンが注目するようになったのである。

 もっとも、バスケットを長く見てきたファンの間では町田の人気は以前から高かった。オリンピックで彼女の存在を知ったファン同様、国内でも身長が低い部類にある町田が、巧みなドリブルと、最大の武器であるアシストで相手チームを手玉に取っていく。それでいて、性格はいたって謙虚。いや、シャイで、人見知りと言ったほうがいいかもしれない。そして、ファンへの対応は丁寧そのものだ。

 しかし、コート上で見せる姿は負けず嫌いの塊のようだ。そのギャップにバスケットファンは萌えるわけである。そんな従来のファンはもちろんのこと、オリンピックで彼女を見初めたファンもまた、彼女を知れば知るほど好きになり、さらに応援したくなってくる。

 ファンだけではない。仲間たちからの信頼も厚い。それは町田が彼女たちの得点シーンを演出してくれるというだけでなく、やはり彼女の性格的なものに拠るところが大きい。

 町田のポジションでもあるポイントガードは「チームの司令塔」とも呼ばれ、オフェンスを組み立て、ゲームのテンポをコントロールし、ときには声を出してチームメイトを鼓舞する必要もある。しかし、町田が大きな声を出すシーンはけっして多くない。もちろん伝えるべきことは伝える。この1~2年はプレーコール(チームで決められた動きをする際に、声に出して伝えること)の声も、以前に比べて大きくなった。Wリーグで11年プレーし、また東京五輪でも結果を残したことが、彼女の自信をより深めたのだろう。

 その一方で、彼女はけっして自分を過信しない。自身に課すハードルが高いともいえるが、並々ならぬ向上心を常に持っている。もっといいプレーができる。もっとチームメイトの力を引き出せる。そうすればチームが勝てる――。

 そんなふうに考えるからこそ、チームメイトの言葉も、それを発する選手の目をジッと見て、真剣に聞く。聞いて、それを実現するために自分のできることは何か、チームですべきことは何かを考える。それがファンにも、チームメイトにも愛される町田瑠唯という選手である。
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