[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第20話 丈一の不満とプライド
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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【(C)ツジトモ】
当然、選手は全員ビジネス席だ。席の割り振りは、主務の勝吉進一がチーム内の人間関係を見て決める。キャプテンの上原丈一の隣は、今関隆史だった。
「スーツって体が固まるよねぇ」
今関が代表のオフィシャルスーツの上着を脱ぎ、ジャージに着替え始めた。
日本代表の移動時はスーツ着用が義務付けられているが、長時間の機内をどう過ごすかが、その後のコンディションに大きく影響する。キャビンアテンダントの視線も気にせず、選手全員がその場でジャケット・シャツ・ズボンを脱ぎ、ジャージに着替える。移動時の恒例の光景だ。
今回はW杯ということで、体のむくみを防止するタイツのようなアンダーウエアも配られていた。機内の疲れの大半は、気圧が低くなって筋肉が膨張することによって生じるむくみだ。それを防ぐために、上半身も下半身もアンダーウエアで圧迫するのである。
夕食が終わると、機内の明かりが落とされた。今関はどこでも寝られる性格のようで、アイマスクを着けるとすぐに寝息を立て始めた。
丈一は目を閉じたものの、なかなか寝付くことができない。考えないようにしても、昨日の選手ミーティングのことが思い出され、気持ちが高ぶってしまう。
もともと今回の選手ミーティングは、チリ戦の感想を語り合うために、先発した選手だけを集めたものだった。ところが、高木陽介が進行役に立候補したことで、話は思わぬ方向に転がり始める。その流れに18歳の小高有芯が加わり、みんなの本音が丈一に襲いかかった。
「ジョーさんには感謝の気持ちがない」
「ジョーさんは考えが攻撃目線すぎる」
想像もしなかった角度から、丈一は矢を浴び続けた。
そして最後に「W杯前にキャプテンをやめませんか?」という有芯の槍が、丈一の心を貫いた。痛みと同時に、仲間の不満を気付けなかったふがいなさ、そしてずっと本音を言ってもらえなかった寂しさが湧き上がってきた。