[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第20話 丈一の不満とプライド
【(C)ツジトモ】
「若い世代が試合で遠慮しているのは、監督のマネジメントに問題があるからだと思います。もっと主張しやすい環境を作ってほしい」
前監督のメーメット・オラルに、そう進言したことがある。オラルは選手から意見を言われるとすぐに怒り、練習や試合で指示を守らなかった選手を招集しなくなる傾向があった。少なくとも丈一からはそう見えた。すべて監督に原因があると思っていた。
しかし、若手が遠慮していた本当の原因は、自分自身だったのかもしれないのだ。
出発前、日本サッカー連盟はW杯に最終登録する23人を発表した。外れたのは左サイドバックの控えの田井中岳、FWの控えの杉陸久と雛倉毅だ。
ホテルから3人が去るときに見送りに行くと、田井中からこう声をかけられた。
「まさかジョーさんが左サイドバックになって、僕が押し出されるとは思いませんでした。ハハ、もちろん冗談ですよ。それより昨日、みんなからダメ出しされたらしいじゃないですか。せっかく監督が代わって停滞していた雰囲気が変わりそうなんだから、うまくやってくださいよ」
これからW杯に臨むというのに、なぜ俺たちは身内で戦っているんだろう。戦うべき相手は外にいるはずだ。仲間割れをしている場合ではない。考えれば考えるほど、悲しくなった。
眠れそうにないため、丈一は席を立った。ドリンクが置かれた場所に行くと、ちょうど日本サッカー連盟の冨山和良会長も来ていた。さすがに会長はジャージには着替えず、スーツのままである。
「ジョー、疲れはないか。W杯頼んだぞ」
冨山会長はそう言って、丈一の肩に手を乗せた。
「任せてください。俺がゴールを決めますよ」
丈一はいつものように強気な言葉を返したが、瞬間的に、会長に不満をぶつけたい衝動が込み上げてきた。キャプテンに内部のことを任せきりで、連盟はあまりにもサポートが少なくないか――。そもそも監督選びが、場当たり的すぎないか。組織として計画性がないから、選手が進むべき道を見失ってしまう。
喉まで出かかった言葉を飲み込み、丈一は「お疲れ様です」とだけ言って、横を通り過ぎた。
これ以上、考えても仕方がない。丈一は席に戻ると、ドクターからもらった睡眠薬を取り出した。錠剤を口に放り込み、水を含んで目を閉じた。
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代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリストが、フィクションだから描き出せた「勝敗を超えた真相」――。
【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く
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