[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第18話 見過ごされてきた「丈一問題」
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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高木は日本からドイツのRVライプツィヒへ移籍し、そこからイングランドの名門・リゴプールへと駆け上がった「パワーフットボール」の申し子だ。両クラブとも激しいプレスと縦に速い攻撃を哲学にしており、高木は体の強さと運動量という武器を生かしてきた。
【(C)ツジトモ】
ビジョンを言うだけなら、子供にもできる。オラルのサッカーは、絵に描いた餅だった。
一方、他の選手がどう感じているか分からないが、新監督のフランク・ノイマンの練習には細かな狙いが満ちている。たとえばノイマンが連日やっている「8人の攻撃を4人だけで守る」練習は、リゴプールでクロッポ監督がよくやる練習だ。今度こそ代表でパワーフットボールをできる手応えがある。せっかく選手ミーティングをやるなら、自分の感覚をみんなに共有したい。
歯磨きを終え、口をゆすいでいると、ドアをノックする音が聞こえた。穴をのぞくと、18歳の有芯が1人で立っている。
「ギーさんにちょっと相談したいことがありまして」
高木は他の選手から「ヨースケ」と呼ばれていたが、なぜか有芯だけからは「ギーさん」と呼ばれている。
「11歳下から相談を受けたら断れないな。選手ミーティングまで時間がないけど、手短にならいいぜ」
有芯を1人掛けのソファに座らせ、高木はベッドの上に腰を下ろした。部屋に若手が来るのは珍しい。緊張感を和らげようと、高木は携帯でクラッシック音楽を流した。
「ギーさん、今のチームの雰囲気ってどう思います?」
高木はてっきり海外移籍のアドバイスや、代理人を紹介してほしいといった類いの相談だと思っていたため、いきなりの重い質問に苦笑いした。
「集まって1週間だから、こんなもんだろ。俺が18歳のときは、チームの雰囲気なんて気にしなかったけどな。逆にユーシンからはどう見えてる?」
「いきなり結論から言っちゃおうかな。このチームって、上と下の世代が分離しているように見えるんです」
うわぁ、ヤベェやつを部屋に入れてしまった――高木は瞬間的に後悔したが、部屋から追い出すわけにもいかない。明るく振舞って、やり過ごそうと思った。
「分離って大げさな。仲は悪くないだろ。モメたわけでもないし。なんでそう思うんだよ」
「まあ、仲は悪くないと思いますよ。でも、本音を言えない雰囲気がありません? 今日のチリ戦の後半、僕、すごくやりやすかったんですね。クルーガーも水島も後半は一体感があったって言ってた。で、なんでかって考えたら、ハーフタイムに上の世代が交代してピッチを去っていたんだなって」
ハーフタイムに交代したのは、キャプテンの上原丈一、今関隆史、そして高木の3人だ。高木はさすがにムッとして答えた。
「おいおい、俺、ジョー、ゼキの3人が交代したけど、俺らがいない方が、若手がのびのびプレーできるってことかよ」