[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第16話 日本的な上下関係

木崎f伸也
サッカー日本代表のフィクション小説『I'm BLUE(アイム・ブルー)』の続編が決定!
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。

木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。

【(C)ツジトモ】

 過去の試合のどんなプレーを見れば、秋山大が抱える不満を推測できるか?

 日本代表の最年少トリオ、18歳の小高有芯、20歳の水島海、21歳のクルーガー龍はVRルームに集まり、25歳の秋山の気持ちになろうとしていた。

 有芯は2人に聞いた。

「守備陣がイラっとするのって、どんな瞬間だろう?」

「GKとしては、DFがシュートに対して背を向けるとイラっとするワ。ドイツだったらUnglaublich(信じられない)、ありえへんね。最後までボールを見てコースを消せよってなる。まあGKの視点は参考にならへんか」

 クルーガーが苦笑いしたが、水島にはヒントになったようだ。

「つまりは失点につながるプレーってことですね。前の選手が簡単にボールを失って、なおかつその選手がボールを追わなかったら、DFとしては嫌です」

 サッカーはミスのスポーツだ。ボールを取られない選手はいない。だが、失ったあとに取り返そうとしないとなると話は別だ。味方がすでにカバーしているか、監督から特別に免除されている場合でなければ、自分のボールロストを挽回しようとしなかったら責任放棄と見られる。

 有芯は「ボールロスト。それ、採用!」と言って、音声ガイダンスに伝えた。

「過去の試合で、日本がボールを失った場面だけをピックアップして流して」

 アーカイブに各プレーがタグ付けして記録されており、条件を伝えれば、それに該当するプレーを再生することができる。

 大画面に次々と日本のボールロストが映し出された。ユベンテスの上原丈一、マンチェスター・ユニティの松森虎、アヤッフスの今関隆史、SC東京のマルシオ、柏ソラーレのグーチャン……いろいろな選手がボールを失っている。

 ただ、失ったあとにボールを追わないケースに絞ると、同じ選手ばかり繰り返し出てきた。FWの丈一とトップ下の今関。2人とも、2024年パリ五輪世代の選手、いわゆるベテランだ。

 水島は生理学を持ち出し、解説を始めた。

「人体の構造上、5〜10秒はクレアチンリン酸がエネルギー源として使われ、それ以上になると別の回路に切り替わって乳酸が出て疲労を感じます。つまり、激しく動いても、数秒以内なら乳酸が出づらい。いくらFWの一番大事な仕事は得点といっても、ボールロスト後の5、6秒くらい頑張って守備をしてもらわないといけません」

 バルサロナの伝説の名将、グアルテオラがボールロスト後に5秒だけ追うことを求める、いわゆる「5秒ルール」には、生理学的な根拠があるのだ。

 有芯は「理屈っぽいー」と素っ気なく返し、映像を見続けた。FWがチャンスに備えて体力を温存するのは、ある意味仕方がない。ただ、丈一らがボールを失ったあとにボールを追わないシーンを繰り返し見ていると、日本代表の場合、全体としての温度感が通常のチームとはどこか違う気がしてきた。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始

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