[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第15話 最年少トリオの「気付き」
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
※リンク先は外部サイトの場合があります
【(C)ツジトモ】
20歳の右サイドバック・水島海と、21歳のGK・クルーガー龍は、ともにドイツ出身で、ブンデスリーグの下部組織で育成された“リアル国外組”だ。水島はW杯予選の途中からレギュラーに定着し、クルーガーはチリ戦で初出場した。
有芯から誘われると、水島はこう返した。
「夕飯が23時半スタートだから、その5分前に終わってくださいね」
水島の両親は日本人学校の先生で、その影響なのか規律違反にすごく敏感だ。年下にも丁寧語を使う。理屈っぽく、ルーズな有芯とは真逆の性格である。それゆえに気が合う部分があった。
VRルームのスイッチを入れると、音声ガイダンスが作動した。
「視聴したい試合を指定してください」
VRルームと言っても最低限の設備で、ボールを蹴ったり、走ったりすることはできない。ただ、好きな選手の視点で試合を振り返る、「360度プレーヤービューモード」の設備が用意されていた。選手が見た風景を顔の角度や目線から割り出し、追体験できるシステムだ。
もともとはアメリカンフットボールのクオーターバックの目線を体験することを目的に開発が進み、それがサッカーに転用されるようになった。湾曲した240度の大きなスクリーンで見ることができる。映画館のような感じだ。
「もうチリ戦の映像は見れる?」
有芯が質問すると、「あと5分で映像のダウンロードが完了します」と音声ガイダンスが応答した。
「じゃあ、それまでチリ戦のニュースでも見ようかな」
壁に取り付けられたスクリーンが地上波に切り替わり、スポーツニュースが流れた。元日本代表選手が試合を解説している。
「今日はノイマン監督の初陣になったわけですが、どうしても新監督というのは自分の色を出したがるものです。それでも前半の3−4−3はやりすぎですね。クレイジーなプレスをかけ続け、すぐにバテた。さらに9番の上原丈一が左サイドバックで、10番の今関隆史が右サイドバックなんですから! 前半だけで3失点して当然。後半はいつもの4−3−1−2に戻して安定しましたよね。テストは完全に失敗です」
大画面を見ながら、クルーガーが「今日の前半はやりづらかったワ」とつぶやいた。母親が大阪出身、父親がドイツ人のため、独特の関西弁をしゃべる。
「初先発やったんやけど、前半は『代表ってこんなバラバラなん?』ってビックリしたワ。俺さ、フィールドの10人と気持ちがつながらんと、気持ちがゲームに入らへんのよ。前半は気持ちが全然シンクロせえへん。せやけど後半はいきなり気持ちがつながった。後半はviel besser(より良い)やったね」
水島が「へー、偶然ですね。僕もそう感じてました」とうなずいたのを見て、有芯がうれしそうに親指を突き出した。
「3人で映像を見返したかった理由は、まさにそこなわけ。後半プレーしていてすごく楽しくなかった? なんでシンクロしたか知りたくない?」