[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第14話 中堅選手の本音
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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【(C)ツジトモ】
「秋山、3バックに手応え『今後の発展が楽しみ』」
そんな見出しが躍っているのを見て、ため息をつきたくなった。本心で思っていることはその真逆だからだ。
「こんなリスクある戦術でW杯に臨む監督がいたら、いますぐ解任した方がいい」
試合後のミックスゾーンで、本当はそう話したかった。だが、記者たちの前に立つと、いつも瞬間的に心のシャッターが下がる。
ミックスゾーンで本音を聞けると思っている記者がいたとしたら、お人好しすぎる、と秋山は思う。あそこは完全に、建前の世界だ。あっという間にネットに言葉が広がる。誰が問題になるような本音を話すというのか。
それを分かった上で、情報を咀嚼(そしゃく)し、文章にするならいい。なのにミックスゾーンの取材だけで、すべてを分かっているつもりになっている記者が時々いる。日本サッカーのレベルが上がらないわけだ、と秋山は愚痴りたいが、当然ながらその本心はメディアには言えない。
1人用のソファに腰を下ろして深く息を吐き、左目からコンタクトを外してゴミ箱に捨てた。
秋山の視力は、左右で大きく異なっている。右目は1.5あるが、左目は0.2しかない。日常生活をする分には問題ないが、人は両目を使って距離を割り出すため、ヘディングやロングパスのときに問題が生じる。だからサッカーをするときだけ、秋山は左目にコンタクトをするようにしていた。
なぜか片方の視力だけ悪い選手はボランチに多い。駆け引きが求められるボランチには、二重人格者が多いのかな。秋山は自虐的に思う。
25歳の秋山は、日本サッカー界きってのサラブレッドだ。父親は元日本代表選手で、母親は女優。自身もファッション誌のモデルとして活躍している。2028年ロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得したチームで、キャプテンを務めた。ただ、サラブレッドゆえに常に品がある振る舞いを求められ、仮面をかぶっているような気分になることがあった。
時計を見ると、23時を回っていた。23時半から夕食があり、そして0時半から選手ミーティングが行われる。
「なんで、日本人ってミーティングが好きなのかね」
参加するのが面倒で、秋山は誰もいない部屋で思わず声を出してしまった。
日本代表は、ある意味、日本社会の縮図だ。上下関係があり、上の年代の発言力が強い。それゆえに選手ミーティングが行われても、若手が意見を言うのは難しく、たとえ言ったとしてもスルーされてしまう。
結局、選手ミーティングは、発言力の強い選手の意見を、みんなの総意としてまとめるのに利用されているだけなのだ。少なくとも秋山の目にはそう見えた。