[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第13話 評価が分かれた壮行試合
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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【(C)ツジトモ】
「キックオフのボールを、相手陣地の深くでサイドラインを割るように蹴り出せ」
フランク・ノイマン新監督がそう指示していたからだ。
システムは3−4−3。前線にボランチが本職のマルシオ、高木、グーチャンというパワートリオを並べ、サイドに創造力がある上原丈一と今関隆史を置くという“シャッフル布陣”だ。
【(C)ツジトモ】
松森虎がGKをマークし、マルシオ、高木、グーチャンが相手のボール保持者を囲む。その背後で丈一、小高有芯、今関がパスコースを消し、3バックはロングパスに備えて相手FWを捕まえる――この極端なコンパクトさに、チリ側がパニックに陥った。
「取れるぞ!」
丈一が声を出したときには、すでにマルシオがボールを刈り取っていた。その瞬間、高木が爆発的なスタートを切り、呼応してマルシオが最前線へ縦パスを送る。松森が体を張ってキープしてから丁寧に落とすと、猛烈な勢いで走り込んできた高木が右足で捉え、わずか45秒で先制ゴールが決まった。
「やべぇ、入っちゃった!」
ゴールパフォーマンスに慣れない高木が驚いた顔で自陣に戻ろうとすると、マルシオとグーチャンが抱きついて喜びの輪ができた。遅れて来た今関が、ジャンプして飛び乗る。
一方、丈一は輪には加わらなかった。ノイマンの初陣でもキャプテンを任され、チームがはまりそうな落とし穴を常に探すべきだと考えていたからだ。丈一は3バックに対して注意を促した。
「チリもこっちのやり方に気づいて、変化してくるぞ。ロングボールに気をつけろ!」
ノイマンが用意した3バックに、スピード面で死角はなかった。本来はMFの秋山大が広い範囲をカバーし、相手のロングボールに先に追いつくと、リスクを侵さずサイドにクリアする。
相手のスローインになったら、あとは先制点のときのようにプレスをかける。とにかくクリア、スローイン、プレスの繰り返し。日本の支配率は20%を下回ったが、チャンスの数は相手を上回った。この戦術を疑っていた丈一ですら「いけるかもしれない」と思い始めた。