[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第13話 評価が分かれた壮行試合

木崎f伸也
サッカー日本代表のフィクション小説『I'm BLUE(アイム・ブルー)』の続編が決定!
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。

木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。

【(C)ツジトモ】

 2030年5月30日夜、新国立スタジアムで日本対チリが始まった。日本はキックオフと同時に、トップ下の高木陽介が敵陣の左エリアをめがけて、斜めにロングボールを大きく蹴り込んだ。

「キックオフのボールを、相手陣地の深くでサイドラインを割るように蹴り出せ」

 フランク・ノイマン新監督がそう指示していたからだ。

 システムは3−4−3。前線にボランチが本職のマルシオ、高木、グーチャンというパワートリオを並べ、サイドに創造力がある上原丈一と今関隆史を置くという“シャッフル布陣”だ。

【(C)ツジトモ】

 キックオフの流れでチリにわざと与えた最初のスローインで、日本はいきなり強烈なプレッシングを仕掛けた。

 松森虎がGKをマークし、マルシオ、高木、グーチャンが相手のボール保持者を囲む。その背後で丈一、小高有芯、今関がパスコースを消し、3バックはロングパスに備えて相手FWを捕まえる――この極端なコンパクトさに、チリ側がパニックに陥った。

「取れるぞ!」

 丈一が声を出したときには、すでにマルシオがボールを刈り取っていた。その瞬間、高木が爆発的なスタートを切り、呼応してマルシオが最前線へ縦パスを送る。松森が体を張ってキープしてから丁寧に落とすと、猛烈な勢いで走り込んできた高木が右足で捉え、わずか45秒で先制ゴールが決まった。

「やべぇ、入っちゃった!」

 ゴールパフォーマンスに慣れない高木が驚いた顔で自陣に戻ろうとすると、マルシオとグーチャンが抱きついて喜びの輪ができた。遅れて来た今関が、ジャンプして飛び乗る。

 一方、丈一は輪には加わらなかった。ノイマンの初陣でもキャプテンを任され、チームがはまりそうな落とし穴を常に探すべきだと考えていたからだ。丈一は3バックに対して注意を促した。

「チリもこっちのやり方に気づいて、変化してくるぞ。ロングボールに気をつけろ!」

 ノイマンが用意した3バックに、スピード面で死角はなかった。本来はMFの秋山大が広い範囲をカバーし、相手のロングボールに先に追いつくと、リスクを侵さずサイドにクリアする。

 相手のスローインになったら、あとは先制点のときのようにプレスをかける。とにかくクリア、スローイン、プレスの繰り返し。日本の支配率は20%を下回ったが、チャンスの数は相手を上回った。この戦術を疑っていた丈一ですら「いけるかもしれない」と思い始めた。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始

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