羽生結弦が目指す「天と地と」の完成形 4回転アクセルへの挑戦の先に見えるもの

沢田聡子

SPに込めた、4回転アクセルに挑む苦しみ

誰も跳んだことのない4アクセルの成功と、プログラムの完成度という2つの目標を、羽生は目指している 【写真:坂本清】

 誰も成功させたことがない4回転アクセルに挑みながら、完成度の高いプログラムを滑る――羽生結弦(ANA)は、26日に行われた全日本選手権で2年連続6度目の優勝を果たし、北京五輪日本代表に内定。3大会連続となる五輪切符をつかみ取った演技が感じさせたのは、五輪2連覇の王者が挑んでいる目標の高さと、そしてその達成に近づいていることへの実感だった。

 ショート前日の公式練習に参加した羽生は、4回転アクセルに挑んでいる。両足で降り、少し回転が不足しているとはいえ、はっきりと4回転半の形になっているジャンプを見た報道陣からはどよめきが起こった。羽生の挑戦は、確実に進んでいる。

 羽生の新しいショートプログラム『序奏とロンドカプリチオーソ』は、今大会で初披露となった。羽生は演奏を担当したピアニストの清塚信也さんと電話で打ち合わせをした際、パッションや切なさ、繊細さがあふれるものにしてほしいという希望を伝えたという。清塚さんが羽生のために弾くピアノの音色と、ジャンプを含めた全ての要素が滑らかにつながっていく羽生のスケーティングが溶け合って、観客を魅了する。

 羽生は「『バラード第一番』や『SEIMEI』という自分の代表的なプログラムたち以上に、具体的な物語や曲に乗せる気持ちが強くあるプログラムになっている」と新しいショートについて語っている。

「ジャンプだけではなく、全部見ていただけるようなプログラムにしたいと思っています」。今までの集大成ともなりそうな、羽生にしか滑れないプログラムだった。

 暗闇から何かをつかみとる物語が込められているというこのショートには、羽生が4回転アクセルに挑む過程での苦闘が反映されている。ショートを滑り終えて首位に立った羽生は、フリーで4回転アクセルに挑むことを明言した。

「もちろん4回転半に挑戦するつもりでいるので、まずは公式練習、最後の最後まで怪我しないように気をつけながら、プラン通りいけるように。体の回復と集中力を高めながら、フリーに向けて頑張りたいと思います」

挑戦の中に込めた『天と地と』へのリスペクト

4アクセルは両足着氷となったが、その後は圧巻の演技を見せた 【写真:坂本清】

 2日後のフリーに臨んだ羽生は、こみ上げてくるものを感じていたという。

「正直、もう6分間練習前から泣きそうで。『あと何回こういう景色が見られるだろう』とか、今までの頑張ってきたこととか、いろんなことを思い出して」

 最終滑走者として登場した羽生は、昨季から継続するプログラム『天と地と』を滑り始めた。一番上の席まで埋め尽くした観客が息を詰めて見守る中、アクセルの軌道に入る。初めて試合で跳んだ羽生の4回転アクセルは両足での着氷となり、回転不足と判定された。

 しかし、その後は圧巻だった。2種類3本の4回転、2本のトリプルアクセルを含む全ての要素を高い完成度で滑り切り、会場を和の美意識で満たしていく。スタンディングオベーションを全身に受けながらフリーを滑り終え、優勝を決めた羽生は演技後「正直ほっとしています」と安堵(あんど)した様子だった。

「とにかくアクセルって本当に難しいですが、それよりも全部がちゃんとプログラムとして、『天と地と』という楽曲とプログラムにちゃんとリスペクトを持った上でできたので、良かったなと思います」

 また羽生は「疲れました」とも口にしている。4回転アクセルを入れてプログラムを通す練習が6割程度の達成度で行えていたことが効いたというが、「やっぱり、(4回転)ループとは比べものにならないぐらい体力の消耗がありました」と振り返った。

「今日の朝の練習で、自分の中では回せることを期待はしていなくて。とにかく本番が一番大事なので『本番に合わせ切れるように』と思って、練習はしていました。ただ、あまりにも跳べなさ過ぎて、若干失望していて。本番にいくまでにかなり精神がグジャグジャになっていたんですが……。そういうところも含めてやっぱり、まだ自分自身が成功し切れてないジャンプである4回転半を使用するということが難しいんだなって、改めて感じさせてもらえたなと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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