北京五輪へ「1.5倍速」で突っ走る坂本花織 決して惑わず、自分の道を切り開く
演技構成点に現れた、4年間の成長
4回転もトリプルアクセルも跳ばない選択をした坂本。それでも、圧倒的な演技で2度目の五輪出場を決めた 【写真:坂本清】
一昨季の坂本は、高難度ジャンプに取り組んだものの試合で安定して跳ぶまでに至らず、不調に陥った。その苦い経験を経て、今の坂本は既に習得しているジャンプの出来栄えと、プログラム全体の完成度・質で勝負する作戦をとっている。その点での成長をどう感じているか問われた坂本は、次のように答えた。
「4年前とやっていることはあまり変わらないんですが、GOE(出来栄え点)の加点の幅が増えたことによって『やっぱりもっと加点を稼ごう、クオリティをもっと上げていかないと』と考えるようになりました。あとはファイブコンポーネンツを上げることを、この4年間しっかりやってきた。その成果が1年ごとにどんどん良くなって点数に現れてきているので、それがすごく成長しているなと感じるところです」
本人がそう語るように、平昌五輪シーズンの2017年全日本選手権と今大会のフリーのジャンプ構成の違いは、当時冒頭で跳んでいた3回転フリップ―3回転トウループを、現在は加点がつく後半に入れていることぐらいだ。ただ、平昌五輪の翌年である18-19シーズンから、技を評価するGOEの幅が、プラスマイナス3点の7段階からプラスマイナス5点の11段階に広がっている。このルール改正により、同じ種類のジャンプを跳んだとしても、坂本のように幅も飛距離もある大きなジャンプにはより大きな加点が望めるようになったのだ。坂本は新しくなったルールの下で改めて自身の強みを認識し、さらに強化を図ってきた。
さらに、17年全日本選手権のフリーで坂本が得た演技構成点(ファイブコンポーネンツ)は67.29だったのに対し、今年は74.79をマークしており、4年間で約7.5点も伸ばしている。4年前は5項目すべて8点台だったのに対し、今大会はすべて9点台に乗せており、その成長ぶりがはっきりと現れる結果となった。
坂本を指導する中野園子コーチは、「坂本の4年間の成長は、演技構成点に出ているのではないか」と問われ、次のように答えている。
「そうですね、『4回転や3回転半をたくさん跳ばないのであれば、そこ(演技構成点)を思い切り伸ばすしかないよ』ということで、力を入れてやってきました。スピードを出し、他の人より速く滑って、ダイナミックなジャンプを跳ぶという点です」
磨いてきたスケーティングスキルが点数に表れる
ブノワ・リショー氏と磨いてきたスケーティング技術は、4年前と比べて飛躍的に成長している 【写真:坂本清】
「後はぎりぎりまで、リモートでブノワに(プログラムの)ブラッシュアップをしてもらっていました」(中野コーチ)
演技構成点での坂本の成長には、ブノワ・リショーの存在が大きく影響している。
「ブノワ先生の振り付けに変わってから、トランジションの内容を濃くしてきたので、それが評価されてすごく嬉しい。後はやっぱりスケーティングスキル(の評価)が上がってきているのは、一番嬉しいことかなと思います」(坂本)
一昨季・昨季に滑ったフリー『マトリックス』を振り付けた際、坂本はリショー氏と合宿を行っている。
「スケーティングスキルが上がったなと思うきっかけは、『マトリックス』の振り付けのためイタリアに行った時に、約2週間の合宿をしたことです。その時、ブノワ先生とのスケーティングの練習を、一日に何時間もやっていた。その時は本当に背中や肩が筋肉痛になるぐらい練習をしたので、『自分にとって、スケーティングスキルも点数を稼げるところなんだ』ということが発見できて、そこから徐々に点数も上がってきました」
実際、17年全日本選手権・フリーでのスケーティングスキルの評価8.46に対し、今大会のフリーでは9.43を得ており、約1点近く伸ばしている。