千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

掲げた理念は「挑戦・熱狂・結束」 ロッテの現場・フロントに行動の迷いなし

長谷川晶一

マリーンズが狙うべき「三つの顧客ペルソナ」

顧客を具現化し、施策を放つ高坂氏。「今は目指すべきもの、なりたい姿が明確になった」と話す。 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

 現在のマリーンズフロントには迷いがない。関係者の話を聞いていて、強く感じることだ。「球団として大切にすべき顧客は?」と尋ねると、高坂の口からはよどみなく言葉があふれ出てくる。

「理念を作る上で、私たちは自分たちの足元を見つめ直す作業を行いました。1つ目はユーザーと市場の理解。自分たちが向き合う顧客はどんな人たちなのか。伸びしろのあるマーケットはどこなのかを探る作業です。2つ目は事業ポートフォリオの見つめ直しです。市場環境動向の理解を通じて、成長余地の高い事業パートがどこにあるのかを考えました」

 ユーザーと市場を見つめ直した上で、マリーンズは「3つの顧客ペルソナ」を打ち出すことになる。「ペルソナ」とは、顧客ターゲットをより具体的に、より詳細に具現化していくことである。高坂の解説を聞こう。

「自分たちが向き合うべき1つ目のペルソナは《ローカル・マリーンズフリーク》です。これは長い間、マリーンズを応援していただいているファンの方々。端的に言うと、コアなファンの方々を顧客として明らかにしました。2つ目は《アクティブ・アラサー》と呼ばれるペルソナです。コロナ禍にあっても、熱心に球場に足を運んでくださる20代、30代の独身男女のみなさんです。そして3つ目は《ファミリー with キッズ》というペルソナです。いわゆる子ども連れの家族です。この3つを設定したことで、それぞれの施策が、どのペルソナをターゲットにしているのかが明確になりました」

 「三つの顧客ペルソナ」についての説明が終わると、高坂は「次のフェーズ」という言葉を口にした。

「18年、19年にチーム単体での黒字化を達成して、自立した経営ができるようになってきたときに、“次のフェーズは何だろう?”ということを河合とも、会社としても話し合いました。かつては、自分たちを俯瞰化して見ることや、瞬発的な力ではなく、長く走り続ける持久力、組織としてレバレッジさせていく力はありませんでした。でも、今は目指すべきもの、なりたい姿が明確です。次のフェーズに向かうための手段が、球団理念であり、Team Voiceであり、チームスローガンなんです」

 やはり、その言葉には何の迷いもない。新たに掲げた理念に向かって、全員が一丸となって邁進すればいい――。そんな思いが透けて見える力強い発言だった。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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