連載:マイアミの奇跡から25年 そして東京五輪へ

46歳で今なお現役の伊東輝悦が明かすあのゴールの裏側「そこで、一瞬迷った」

北條聡
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当時のメンバーは指導者や解説者、タレントとしてセカンドキャリアを送っているが、8月31日に47歳となる伊東は今なお現役を続ける 【YOJI-GEN】

 96年のアトランタ五輪で日本はいきなり優勝候補筆頭のブラジルと対戦した。一方的に押し込まれる展開だったが、72分に千載一遇のチャンスが訪れる。左サイドからクロスを放り込むと、DFアウダイールとGKジダが激突。こぼれ球をゴールに蹴り込んだのが伊東輝悦だった。あれから25年、47歳を迎える今なおピッチに立つ殊勲者に、当時の思い出と現役へのこだわりを聞いた。

城が触ってなくてよかった

――改めて、1996年アトランタ五輪本大会の話から聞かせてください。

 4年ごとに当時の記憶が薄れていっていますよ(笑)。

――まず『マイアミの奇跡』について。ご自身が決めたブラジル戦の決勝ゴールですが、中盤から突然、ゴール前へ走り込んだのは……。

 直観です。後ろから相手ゴール前の景色を見たときに、これは行けるぞと。走り込めば何かを起こせるんじゃないかと。

――その景色を具体的に言うと……。

 なんと言うか、スペースがぽっかりと空いているような感じがしたんです。

――ほぼ防戦一方で、体力もかなり消耗している中で、よく攻め上がろうと思いましたね。

 確かに体力的にはしんどかったと思うんです。そう考えると、やっぱり直観に突き動かされたんでしょうね。ただ、あんな結末になろうとはまったく想像していなかったですが。

――目の前にこぼれ球が転がって来て……。

 本当にラッキーだなと。実を言えば、路木(龍次)さんからのクロスを直接狙って走り込んだんですよ。ただ、ボールはニアサイドの(城)彰二のほうへ……と思ったら、あれあれあれと。ただ、そこで一瞬、迷いました。

――何を迷ったのですか。

 もしも、彰二がボールに触っていたらどうしようと。自分が押し込んだら、彰二の得点じゃなくなっちゃうなと。

――あのコンマ何秒の間に……ですか。

 そうです。でも……触っちゃいますよね、やっぱり(笑)。

――そんな風に考えるとは、いかにも黒衣に徹してきた人らしいですね。

 あとで彰二に確認したら「ボールに触っていないよ」と言うので、よかったなと。

――決勝点が生まれる直前あたりまで、ブラジルをどう見ていたのですか。

 なかなか点が入らない焦りがあったのか、強引な攻めが少しずつ増えてきたなと。個が前面に強く出てきた感じがあったんです。そこは助かりましたね、僕らにとっては。

――本当のことを言えば、アジア最終予選の時のような(攻撃的な)戦い方をしたかった、という話もされていましたが。

 ただ、相手があることですから。いろいろなことを考え含めると、より勝つ確率の高い戦い方を選択したのは仕方がないのかなと。

――西野朗監督から全幅の信頼を置かれていましたが、何か印象に残ることはありますか。

 ずっと不思議に思っていたことがあったので、あとになって西野さんに聞いたことあるんですよ。なぜ自分をあのポジション(ドイス・ボランチの一角)で使おうと思ったのかと。そもそも当時の僕はアタックが好きで、守備はどちらかと言えば嫌いでした。抜てきされた当初は大丈夫かなぁと思っていたんですよ。

――で、西野監督の答えは……。
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