バイエルン移籍を決めた熊谷紗希の野望「古巣リヨンを倒してUWCLの頂点に」

早草紀子

19-20シーズンには、リヨンでUWCL5連覇の偉業を成し遂げた。決勝のヴォルフスブルク戦にフル出場した熊谷は、左足でスーパーミドルも決めてみせた 【(C)Bennu】

 なでしこジャパンの一員としてFIFA女子ワールドカップ(W杯)を制した2011年、熊谷紗希は弱冠20歳でドイツへ渡った。その後、世界屈指の強豪チームであるフランスのリヨンへ移籍し、UEFA女子チャンピオンズリーグ(以下、UWCL)5連覇という偉業に貢献する。残念ながら今季は準々決勝で惜しくも敗退。今回はその悔しさがまだ残る中でのインタビューとなったが、それでも熊谷は気丈に、UWCLへの想い、現地時間5月16日に行われるファイナルの見どころ、さらには今オフにリヨンを離れ、新天地へと向かう覚悟を語ってくれた。

UWCLを獲るためにヨーロッパへ来た

――ヨーロッパのクラブチームの頂点を決めるUWCLですが、やはり特別な思い入れがありますか?

 そうですね。独特な雰囲気がありますし、私個人にとっても、チームとしても、この大会に懸ける想いは強いですね。

――これまでで、特に印象に残っている試合は?

 ドイツに渡って1年目に、フランクフルトでファイナルを経験できたのはすごく大きかった。そして、そこで敗れた相手のリヨンへ移籍し、3年目の15-16シーズンに初めてUWCL優勝を果たせたんですが、その瞬間の喜びも忘れがたいですね。私はこのタイトルを獲るために、ヨーロッパに来たようなものですから。

――女子W杯に続いてUWCLも制覇。20歳からの数年で、とんでもない景色を見ましたね。

 たしかに(笑)。W杯優勝は誰もが経験できるものではないし、ゴールドテープが舞う中、あの表彰式で見た景色は今でも忘れられません。そういえば、W杯と同じく、UWCLの初優勝も最後は私のPKで決めたんですよね。リヨンでの最初の2年は、いずれも早い段階で敗退してしまっていたので、3年目でようやくタイトルを獲れたときは本当にうれしかったし、私にとってはW杯優勝と同じくらいの価値があります。

――UWCLという大会から得たものは?

 国の代表として戦うW杯やオリンピックとは違って、UWCLは毎日一緒に練習し、切磋琢磨してきた仲間たちとともに立つ舞台。特に決勝は、長いシーズンのいわばゴールですからね。そこにたどり着き、頂点を極めたときの達成感は、代表で味わうものとはまた違うんです。

日本の女子サッカーと世界が近づく機会

チェルシー対バルセロナというカードになった今季のUWCL決勝。熊谷が注目するのは、一発勝負の駆け引きと、友人でもあるチ・ソヨン(中央)のプレーだ 【Getty Images】

――今季は残念ながら、準々決勝でパリ・サンジェルマンに敗れてしまいました。外から決勝戦を見るのは久しぶりですね。

 いや〜、やっぱり悔しさはありますよね。準決勝の2試合もすごくレベルが高かったし、自分もあのピッチに立ちたかった。

――決勝はチェルシー対バルセロナというカードになりました。納得の顔合わせですか?

 納得しかないですね。準決勝で敗れたパリとバイエルンにもチャンスはありましたが、この世界は結果がすべてですから。決勝について言えば、個人的に見ていて面白いなと感じるのは、バルセロナのサッカー。パリとの準決勝2試合はいずれも入りが良くて、早い時間帯に先制点が取れています。決勝でも相手がリズムをつかむ前に先手を取れれば、優位に試合を運べるでしょう。ただ、チェルシーも前線にパワーのある選手がそろっていますからね。どちらが勝つかは分かりませんが、ひとつ大きなポイントになるのは、ホーム&アウェー方式の準決勝までとは違って、決勝は一発勝負だということ。それを踏まえてどう戦うか。そのあたりの駆け引き、心理戦も楽しみたいと思っています。

――決勝で注目している選手はいますか?

 チェルシーだと、やっぱり韓国代表のチ・ソヨンですね。友達でもあるので、個人的にかなり応援しています(笑)。

――かつてINAC神戸でもプレーしていたので、日本のファンにもなじみがある選手ですよね。そして今回、そのUWCLの決勝がDAZNで配信されるそうです。

 日本でも見られるのはうれしいですよね。ぜひサッカーをしている女の子に見てもらって、女子サッカーにも世界につながる道が開けていることを認識してもらいたいですし、大きな夢を持ってもらえたらとも思います。なかなか女子サッカーがフォーカスされることって少ないですし、こういう機会が日本の女子サッカーと世界との距離を近づけることになるんじゃないかとも思います。今後、DAZNさんで女子サッカーに関して、さらに大きな発表があるという話も聞いているので、それも楽しみです。

――さて、熊谷さんがヨーロッパに渡って、ちょうど10年目。まさにヨーロッパの女子サッカーが急速に発展してきた、そのど真ん中にいたと思いますが、そうした勢いは肌で感じていましたか?

 はい。例えばイングランドでも、ここ数年で男子のチームが女子チームを持ち始めるようになりましたよね。もうシンプルに、お金のかけ方がすごい(笑)。こうしてクラブチームが強化されれば、自然と代表チームもレベルアップしていきます。私がヨーロッパにやって来た当初は、UWCLでも2回戦あたりでは10点以上の大差がつく試合が結構あったんですが、ここ数年は本当に少なくなりました。リヨンでプレーした8年間を振り返っても、年々サッカーに打ち込める環境が整備されてきたように思います。

――例えば、どんなところですか?

 まず、5年前に最新鋭のホームスタジアム(パルク・オリンピック・リヨン)が完成しましたし、そこには男子と女子の立派な練習施設やクラブハウスも併設されています。そしてUWCLのアウェーゲームは、基本的にプライベートジェットで移動。なかなか女子のチームで、ここまで恵まれた環境はないと思います。

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著者プロフィール

東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりJリーグ撮影を開始。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンとなる。以降、サッカー専門誌で培った経験を武器に、サッカー撮影にどっぷり浸かる。現在はJリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルフォトブラファーであり、日本サッカー協会オフィシャルウェブサイトでは女子サッカー連載コラムを担当している

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