新星・鍵山優真を後押しした羽生の言葉「気持ちに嘘つこうとしていたので…」

沢田聡子

トラブルに見舞われていた羽生

全体3位に終わった羽生は、一夜明け会見でぜん息の発作を起こしていたことを明らかに 【Getty Images】

 ショートで唯一無二の存在感を示し、首位に立った羽生のフリーは、しかし苦しいものになった。冒頭の4回転ループの着氷で手をつくと、続く4回転サルコウの着氷でもバランスを崩す。得意としているトリプルアクセルでも着氷で前傾し、セカンドジャンプをつけられない。後半の4回転2本を決めたのはさすがだったが、滑りにもスピードがなく、最後のトリプルアクセルでも着氷が乱れる。全日本選手権での神がかったようなフリーを見ているだけに、この大舞台でも世界に本来の『天と地と』を見てもらいたかった。羽生のフリーは182.20という得点で、総合3位に終わった。

「全体的に感覚は悪くなかったので、練習でもあまりこういうパターンは出なかったんですけど…なんか一気にバランスどんどん崩れていったなっていう感じは、自分の中ではしました」

「あんまり大きな問題だったとは思っていなくて、ほんのちょっとずつ崩れていただけなので。トレーニングで頑張ってきたことだったりとか、後は練習で注意してきたことだったりとか、そういったものはできたと思っています」

 世界選手権への出発直前に地元・宮城県で起きた地震の影響で移動の予定変更を余儀なくされた羽生は、一夜明けの会見でフリーの後にぜん息の発作を起こしていたことを明らかにしている。

「トラブルがちょっとずつ続いていて、実際に6分間練習ではそんなに影響は感じてはいなかったんですけれども、最終的にそのちょっとのほころびが、全部につながったかなというふうには思ってます」

「一つずつ、ほんのちょっとずつずれているだけなので、自分の中で。だから順位だとか点数だとか、それ以上に自分の中では、やり切れたなという感触もあります」

不調の中で最善を尽くした宇野

宇野はフリー3位に食い込み、「本当にできるマックスだった」と振り返る 【Getty Images】

 もう一人の日本代表・宇野昌磨は、世界選手権が行われたスウェーデン・ストックホルムに入ってから調子を落としていた。ショートでは、最後のジャンプ・トリプルアクセルで転倒して6位と出遅れる。フリーでは二つの4回転で4分の1の回転不足をとられながらも、4本の4回転と2本のトリプルアクセルを着氷させ、フリーだけの順位では3位、総合4位と巻き返して意地を見せた。フリー後、宇野は「こっちに着いてからの練習で、本当にできるマックスだったかなと正直思っています」と吐露している。

「このような状態でも、ここまでなんとか耐えることができた。これは良い点ではありますけれども、やはりスイスで練習していた時に比べて、ジャンプの調子が全然よくない。その調整する部分が、今後の課題点といいますか、必要な部分になってくるのかなと思っています」

 それぞれの立場で最善を尽くし、北京五輪で最大の出場枠「3」を得た日本男子。圧倒的な存在として君臨するチェンだが、日本勢も彼を追う存在として2・3・4位を占めている。来季の激闘を予感させる、北京五輪プレシーズンの世界選手権だった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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