ダルビッシュ有、2020年の変化を分析 良かった球種、良くなかった球種は?

丹羽政善
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幻に終わったライバル二人の共演

サイ・ヤング賞の有力候補に挙がっているダルビッシュ。2020年の投球内容を分析してみた 【Getty Images】

 2018年のオフ、ダルビッシュ有(カブス)とトレバー・バウアー(レッズ)は、一緒にオフの自主トレを行う可能性があった。どちらからという話ではなく、その年の序盤、ダルビッシュは結果を出せず、5月26日に右上腕三頭筋の腱炎で戦列を離れたが、心配した二人の代理人(現在、バウアーは代理人を変更)がバウアーに連絡し、そうした道を模索したという。

 ダルビッシュがバウアーからなにかしら復調のきっかけをつかめれば、ということか。

 二人のデータやバイオメカニクスの知識を利用したアプローチには共通点が多く、同じ言語を話す。また、彼らの持ち球の種類、軌道は非常に似通っており、攻め方にも共通点が少なくない。二人なら、高い次元で意見交換もできるのではという狙いは、いいところを突いている。

 ただその計画は、その年の8月にダルビッシュの右ひじの故障が当初の診断よりも重症で、オフは治療、リハビリが優先されることになったため、幻となった。

 もっとも、最初に刺激を受けたのは、バウアーの方だった。

 以前も紹介したが、2013年4月、ネット上でダルビッシュの5球種を重ね合わせた動画が広まると、それを見たバウアーは衝撃を受けた。
「フォームが変わらず、途中までそれぞれの球種の軌道が同じ。そして最後に枝分かれする。思えば、あれがピッチトンネルのオリジナルコンセプトだったのではないか」

 バウアーはすぐに、映像を重ね合わせることのできるファイナルカットプロというソフトを購入し、自分の投球映像を重ねてみたが、ダルビッシュほどフォームも軌道も一致しなかった。

「以来、そこが目指す方向の一つになった」

 少々前置きが長くなったが、今年のナ・リーグのサイ・ヤング賞は、二人の争いになるとみられている。投球術だけではなく、飽くなく探究、それをSNSなどで惜しみもなく発信するスタンスも似ており、その意味でも興味深い。しかも、まれに見る接戦。今年の投票を行ったNBCシカゴのゴードン・ウィッテマイヤー記者も、「これまで何度もサイ・ヤング賞の投票を行ってきたが、これほど拮抗(きっこう)した争いは記憶にない。今までで一番難しかった」と話す。

 現地11日(日本時間12日)に結果が発表されるが、今回の企画の前編では、今季の変化をボールの軌道、質という視点から辿(たど)ってみたい。後編では、バウアーがダルビッシュについて語っているYouTubeの動画を利用しながら、その各軌道がどう相互に作用しているのかをピッチトンネルの観点から掘り下げていく。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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