ライバルが語るダルビッシュのすごさ 甲乙つけがたいサイ・ヤング賞の行方は?

丹羽政善
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自らの経験を裏付けしてくれたダルビッシュ

ナ・リーグのサイ・ヤング賞を争うダルビッシュとバウアー。互いに豊富な知識を持ち、球種や攻め方も似ている 【Getty Images】

 まだメジャー入りして間もない頃、トレバー・バウアー(レッズ)が、ダルビッシュ有(カブス)の投球術に刺激を受けたことは、前編の冒頭で触れた。それは、軌道は軌道でも、特定の球種の質ではなく、複数の球種の相互作用において、である。
 バウアーは大学時代、高めに4シームを投げ、同じ高さからカーブを投げるとそこに相乗効果が生まれ、両球種がより効果的になると感じていた。しかし、捕手は、基本的に真っすぐは低めに要求。「それで、何度も議論になった」と振り返る。

 同じような軌道で異なる球種を投げ分ける――それがまさにピッチトンネルの基本概念だが、当時まだその理論が認知されていたわけではなく、投手らは経験でそれを知っていたに過ぎない。

 そもそもバウアーは、大リーガーの打者が高めのボール球や外角のボールになるスライダーに手を出すことに対し、「なぜ、レベルの高いメジャーリーガーが、あれに手を出すんだ?」と不思議に思っていたという。自分が大リーガーとなったとき、それが投手のレベルの高さの裏返しであり、それを明確な形で示してくれたのが、例のダルビッシュのビデオだった。
「同じようなフォームから、同じような軌道の球を投げることで、打者は錯覚する。伏線を張り、それをどう回収するか。そのヒントがそこにあった」

 以下で紹介する映像では、自ら打席に立った経験をもとに、その点についてダルビッシュのそのすごさを検証している。

【Trevor Bauer YouTubeチャンネルより】

実際に対戦して分かったことは?

 二人が投げ合った昨年8月9日、バウアーは2度、打席に立った。

 1打席目の初球。ダルビッシュが投じたのはほぼ真ん中の甘いカットボール。しかしバウアーは、「相手は投手。4シームを投げてくる」と読んでいたため、反応できず。2球目は低めのカットボールを空振り。これは「4シームに見えた」そうで、体が泳いだ。3球目は見逃せばボールという外角に遠く外れるスライダーに手を出し、三振を喫している。この球に関してバウアーは、「まさにあの球を投げてくると予想していた」そうだ。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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