大リーガーがSNS発信に力を入れる理由 70勝右腕バウアーの“親しみ”戦略とは?
今や、選手らにとってもTwitterやInstagramなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は当たり前の存在。子どもの頃から慣れ親しんでいるだけに抵抗がない。また、ツールの多様化で始めるハードルも下がり、自分の考えや日常を習慣的に伝える選手が増えた。
それを駆使する日本人大リーガーとしてはダルビッシュ有(カブス)が昔から有名だが、前田健太(ツインズ)も今、YouTubeで多くのファンを獲得している。ただ、大リーガーに限らず、多くのプロアスリートの中でも、通算70勝右腕のトレバー・バウアー(レッズ)ほど、複数のチャネルを使い、さまざまな発信を行っている選手はいない。
開幕が決まらなかった間も、Twitterでは歯に衣着せぬ投稿を重ね、大リーグ機構側の提案について問題点を指摘。YouTubeではその問題の核心をじっくり説明した。一方、Instagramなどでは、チームメートのデレク・ディートリッチらと砂漠での対決を配信。それを見た選手らが、次々に「俺も打ちたい」、「俺も投げさせてくれ」と、バウアーに連絡。これまで互いに知らなかった選手らが集まるなど、彼のSNSが“つなぐ”役割を果たした。
ではなぜ、バウアーはここまで深くSNSの世界に足を踏み入れ、また、自らの取り組みを、惜しげもなく表に出すようになったのか。今回、バウアーのYouTube動画を特集するにあたり、本人にインタビュー。彼の考えを聞いた。
ファンとのつながりを失いたくなかった
いまやアスリート屈指の発信者であるバウアー。SNSを始めたきっかけは「ファンとのつながりを失いたくなかった」からだという 【Getty Images】
6月23日(現地時間、以下同)、アリゾナ。ちょうど前日に7月下旬開幕の流れが決まり、バウアーはキャンプ中断後もそのまま滞在していたアリゾナからシンシナティへ移動する直前の慌ただしい中で取材に応じてくれた。
「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校/バウアーの母校)時代にも一定のファンがいたし、ダイヤモンドバックスに指名されるとファンが増えた。でも、マイナーの試合がテレビ中継されるわけではないから、どう過ごしているのか伝えることができない。それでSNSという手段で彼らとの関係を保とうと考えた」
ファンとのつながりを保つためにSNSを使う。そこまでなら他の選手も同じような考えを持つ。しかし、YouTubeチャンネルではピッチトンネルとその効果を詳しく解説(第4回で紹介予定)し、バッテリーのサイン交換のバリエーション(第3回で紹介予定)や、チームメートらとのピッチングフォーム談義(第5回で紹介予定)を公開している。
さらに、球種の握りどころか、どう投げたらどう曲がるのか、その根幹をなす回転軸の説明から、では、その回転軸の球を投げるにはどうしたらいいのかというところまで踏み込む。
一昔前なら、いや、今もそうした情報をあまり知られたくないという選手はいるかもしれないが、そうしたすべてをバウアーは包み隠さず晒す――どころか、むしろ積極的に伝えようとする。
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きっかけは小学生の頃、サイ・ヤング賞投手との邂逅
バウアーが小学生の頃、大きな影響を受けたジト。左腕から繰り出すカーブを武器に、2002年にはサイ・ヤング賞に輝いた 【Getty Images】
「バリー・ジト(元アスレチックスほか)の影響が大きい」
ジトといえば、イチロー(現マリナーズ会長付特別補佐)がマリナーズに入団した頃、アスレチックスでティム・ハドソン、マーク・マルダーと先発3本柱を形成し、2002年には23勝5敗、防御率2.75でサイ・ヤング賞を獲得している。そのジトとバウアーには世代ギャップがあり、どこに接点があるかだが、バウアーが小学生の頃、アラン・ジーガーという遠投のプログラムなどで知られるトレーナーのキャンプに参加。すると、ジーガーの元でトレーニングをしていたジトがゲストとして訪れ、バウアーらを指導したのだという。
そのときにジトにいろいろ質問したバウアーは、「あの会話がその後、大きな意味を持った」と振り返る。
「あの経験があるから、大リーガーになった今、僕から学びたい、という人がいるなら、伝えていきたいと考えるようになった」
バウアーは、単に野球教室などで教えるのではなく、さらに多くのファンに声を届けるためにSNSを使い、映像とともに説明したほうがいいと考え、当時はまだプラットフォームとしてはあまり認知されていなかったYouTubeにも投稿を始めた。