連載:ラ・リーガセミナー「#TodayWePlay」

マジョルカSNSを席巻する「タケ現象」 特化コンテンツの「タケチューブ」も好評

工藤拓

ピッチ内外で存在感を増す久保建英。マジョルカに大きな影響をもたらした 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ラ・リーガがスペイン政府の文化機関インスティトゥト・セルバンテス東京と共同で開催するオンラインセミナー「#TodayWePlay」。その第2回が7月2日に行われた。

 今回の講演者は久保建英が所属するマジョルカのビジネスCEO、アルフォンソ・ディアス氏。クラブのビジネス面を統括する彼の講演は、そのままクラブへの投資を呼びかける日本企業向けのプレゼンテーションとなりそうなほど、専門的な内容となった。

ラ・リーガが投資先として魅力的な理由

 講演の冒頭にはクラブが作成したイメージ映像が流され、2年連続の昇格を成し遂げたチームと熱狂するファンの様子が、マジョルカ島の豊かな自然と共に紹介された。

 映像に続き、ディアス氏はパワーポイントを使って資料を提示しながらクラブの概要について語り始めた。

 ディアス氏はこれまで3人の日本人選手が所属してきたことを強調した上で、1998年のスーペルコパ・デ・エスパーニャ優勝、99年のUEFAカップウィナーズカップ、2003年のコパ・デル・レイ優勝といった過去の実績を紹介。さらに下部組織やスタジアム、練習施設について触れ、今季の年間予算やシーズンチケット保有者数、SNSのフォロワー数、マジョルカを訪れる観光客や空港の利用フライト数といった具体的なデータまで説明してくれた。

 続いてディアス氏はクラブの大株主であるロバート・サーバー(NBAフェニックス・サンズオーナー)、スティーブ・ナッシュ(元NBA選手)、アンディ・コールバーグ(元プロテニス選手)について言及。そして講演は「なぜマジョルカのようなクラブが国外から投資を受けるのか」というテーマに入っていく。

「フットボール界への参入を目指す投資家たちはドイツ、イングランド、スペインのようなビッグリーグを選ぶ」と考えるディアス氏は、ラ・リーガのクラブが魅力的な投資先である理由として3つの要因を挙げていた。

「1つ目の理由は5年前に始まったファイナンシャル・フェアプレー制度により、収益を上回る支出ができないようクラブの財政が管理されていることです。これにより、ずさんな経営によって破産に追い込まれるような事態は避けられるようになりました。

 2つ目はラ・リーガによるテレビ放映権の一括管理です。以前は各クラブが個別に交渉していましたが、現在はラ・リーガが一括で販売することで市場価値が大きく上がり、各クラブが安定した収入を得られるようになりました。

 3つ目はラ・リーガへの投資は今が好機であることです。プレミアリーグは現在最も高額のテレビ放映権収入を得ていますが、スペインも彼らを猛追しており、より大きな伸びしろが見込めます。多くの国外の投資家がラ・リーガのクラブに興味を持っているのはそのためです」

 さらにディアス氏はマジョルカに投資すべき理由として「タレントの宝庫」「アカデミーの質」「VIP向けファシリティーの充実」といった要素を列挙した後、クラブのビジネス戦略について話を進めていく。

「我々が重視しているのはブランドイメージです。マジョルカはいちフットボールクラブですが、著名な株主を有し、美しい自然と魅力的なライフスタイルに恵まれた環境があります。我々はそれらの付加価値をクラブのブランドイメージに結びつけたいと考えています。固定概念にとらわれない斬新なアイデアを発信し、テクノロジーを活用するクラブというイメージも確立していくつもりです」

 現在の経営体制が始まった2015年以降、クラブのチケット収益は4倍、スポンサー収益は7倍に増し、負債は55%減少したという。今後の課題は2、3シーズン以上1部にとどまることで安定した経済状況を作ること。そしてテレビ放映権収入に頼らぬ収入源を確保していくことだ。外国人オーナーの利点を生かし、NBAやフェニックスサンズと提携した事業も展開していく。

日本での視聴数はバルサ、レアルを上回る

久保の加入後、マジョルカのSNSは大きく伸長。視聴者数はバルセロナ、レアル・マドリーをも上回るという 【Getty Images】

 気になる久保選手については、SNSの話の中で言及していた。

「SNSにおけるタケの加入がもたらした影響は想像を上回るものでした。我々は『タケ現象』と呼んでいるのですが、日本のファンにとってどれだけ彼が重要な存在であるかを実感しています。ユーチューブではタケに特化したコンテンツも展開しているのですが、仲間内では『タケチューブ』と呼んでいます」

 久保選手の加入により、SNSのクラブ公式アカウントは昨季比でフォロワー数が24%、エンゲージメントは400%、投稿は12%の伸びを見せたという。また日本におけるラ・リーガの視聴者数は、バルセロナやレアル・マドリーの試合を上回る計4580万人を数えている。

 その後は同席したコミニュケーションマネジャーのアルベール・サラス氏も交えて在籍経験のある3人(大久保嘉人、家長昭博、久保)の日本人選手についての思い出を語り、「今後も日本人選手が活躍するクラブでありたい」との言葉で講演を終えた。

 後半の質疑応答では久保の性格が垣間見えるエピソードなども飛び出したが、それはセミナー参加者のみが知り得る特権として伏せておきたいと思う。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント