ダニエル太郎が目指す「攻撃的なテニス」 新コーチと歩む、進むべき道

内田暁

クラウドファンディングによる賞金大会「BEAT COVID-19 OPEN」に参加するダニエル太郎 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ニューヨーク生まれの日本育ち、テニスはスペイン仕込みの、日米ハーフ――。

 そのようなカラフルなプロフィールに、ステレオタイプを重ねるのはいささか安易ではある。ただ事実、彼は広い視野と多角的な視座を持ち、自分自身をもどこか客観的に俯瞰(ふかん)している風情がある。
 
 ダニエル太郎。クラウドファンディングで開催される賞金大会「BEAT COVID-19 OPEN」の、男子ナンバー1選手だ。

 そんな彼が、今年3月にツアーの中断が決まったとき、「これはけっこうやばいな」と感じたという。ヨーロッパにも親族や広い人脈を持つ彼は、欧州で起きつつある新型コロナ感染拡大の状況をも、より身近に感じてもいた。そのウイルスの広がりが、今後、北米や世界中に至るだろうことは必至。そうなれば、選手たちの移動を大前提とするテニス界のツアーというシステムそのものが、継続は困難になるだろう。
 
「今年いっぱいは、ツアーの再開はないんじゃないか……」

 現実味を増す不吉な予測は、昨年末に新コーチを雇い目指すべきテニスの方向性が見えてきていただけに、より重く心にのしかかる。

 その不安を取り除くかのように、周囲の選手たちに「なんで今、そんなにガンガンやっているの?」と訝(いぶか) しがられるほど、ツアー中断直後からダニエルはトレーニングに打ち込んでいた。

 だからこそ、8月中旬からのツアー再開の報を聞いたとき、ダニエルは「正直、嬉しかった」という。

「せっかくテニスもいい感じに出来上がっている。それを使える場所にいたい」

 それが、彼の素直な思いだった。

若き日のフェデラーを指導した新コーチ

ダニエル太郎「緊急事態宣言中にも結構トレーニングはしていたので、体はとても良い状態に入っています」 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ダニエルが昨年末にタッグを組んだ新コーチとは、オランダ人のスベン・グローネフェルト。若き日のロジャー・フェデラーを指導し、マリア・シャラポワとキャリアをともにした、この道の第一人者だ。

 ダニエルは20代前半の頃から、「自分のピークは27歳頃に来る」との青写真を思い描いていた。技術的やフィジカルの向上に、経験が重なるのがその頃だとの見通しがあったからだ。

 だが26歳も折り返しに差し掛かった頃、それまでの思いに変化が生まれる。

「以前は、これまでやってきたテニスの質を上げていけば、自然と良いプレーヤーになれると思ってたんです。でも、何かを変えないとダメだなって。テニスのディベロップメント(発展)に賭けるなら、今かなという感じがあって」

 その「ディベロップメント」とは、「アグレッシブ(攻撃的)なテニス」の確立。もっともそれは、数年前からダニエルが継続的に掲げていたテーマではあった。しかし、いかに実現するか、その順路はなかなか見えていなかったという。

 その進むべき道が、グローネフェルトと話し、実際に練習するうちにはっきりと見えてくる。「良いショットを打つこと」一つを挙げても、「今までは強く打つことかと思っていたが、早いタイミングで打てば力を入れなくても良いボールが飛んでいく」ことも実感できたという。

 その新コーチからも、「8月にツアーが始まるなら、そろそろ実戦に近い緊張感の中で試合をした方が良い」と助言されたこともあり、ダニエルは6月末に、自らエキシビションマッチイベントを企画し、実施。そして今回の「BEAT COVID-19 OPEN」にも、実戦の風を求めて参戦した。

「緊急事態宣言中にも結構トレーニングはしていたので、体はとても良い状態に入っています。テニスも、緊急事態宣言が解除されてからは頑張って練習していて、確実に細かい部分で上達しているという実感はあります。サーブも良くなっているし、球足が速いコートでのランニングフォアなども課題にしています」

 そのように、明確に言語化できるほどに自身の「ディベロップメント」を感じつつ、ダニエルは今回の大会に挑んでいる。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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