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テニス界の新たなロールモデルをーー
「BEAT COVID-19 OPEN」主催者の決意
クラウドファンディングによる賞金大会「BEAT COVID-19 OPEN」を立ち上げた山根氏
クラウドファンディングによる賞金大会「BEAT COVID-19 OPEN」を立ち上げた山根氏【スポーツナビ】

「日本国内で、テニスをなんとか再開できないだろうか? 独自の大会を作り、選手たちには真剣勝負の場を、そしてファンにはテニスを楽しむ機会を与えられないだろうか?」

 

 新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中のテニスが停止した春――。


 多くの関係者がそう願いながらも、手段を持たず歯がゆさを覚える中、かねてより「テニスに恩返ししたい」との思いを抱いていた人物が、今がその機だと立ち上がった。

 

 住宅設備機器・建築資材を商うサンワカンパニーの山根太郎社長は、十代後半の青春期の大半をテニスに捧(ささ)げてきた。


 幼少時に病を患ったため、ラケットを手にしたのは15歳と遅め。ただその遅れた出会いが、テニスへの熱を急速に高めた。米国フロリダ州への短期テニス留学も経験し、国内のトップ選手が集うアカデミーでプロになるべく汗を流した。ただ、ニュージーランド開催のツアー下部大会の予選で完敗を喫した時、一つの夢に見切りをつけた。21歳の時である。


 かくして、活躍のステージをビジネスの世界に移した山根氏ではあるが、テニスは彼のキャリアにおいて、常に重要な役割を果たしてきた。特に海外に行けば、テニスを介し現地の人々や関係者と打ち解けることができる。年齢を重ねるごとに改めて、「テニスは自分の人生を形成する、重要な要素だった」との思いも強くした。


 だからこそ、テニス界に何か還元したいと思いつつも、日々の激務に追われ機会も時間もなかなかない。


 それが今回のコロナ禍により、予定していた海外出張が消え、そして世界からは、テニスが消えた。


 ならば自分が、国内で非公式大会を立ち上げよう。防疫を徹底し、後に続く大会やイベントのためのロールモデルを作ろう――その思いから生まれたのが、クラウドファンディングによる賞金大会「BEAT COVID-19 OPEN」である。オープンエントリーで募った男女各10名の参戦選手リストには、ダニエル太郎や日比野菜緒ら国内トップ選手の名が並んだ。

クラウドファンディングで大会の支援者を募集

「BEAT COVID-19 OPEN」にダニエル太郎(写真)や日比野菜緒ら国内トップ選手が参加する
「BEAT COVID-19 OPEN」にダニエル太郎(写真)や日比野菜緒ら国内トップ選手が参加する【写真:ロイター/アフロ】

「日本にいるテニスファンの方に、『自分も一緒に作った大会だ』という当事者意識を感じてほしい」


 その理念を実現するため、大会運営費をクラウドファンディングで募ることは、大会創設時から山根氏が決めていたことだった。


 だが、いざクラウドファンディングを始めると、その伸びは「想像以上に難しかった」と山根氏は率直に告白する。テニスを見たいと願う人は、日本国内にも多くいるだろう。ただ、誰もが自分の日常を守ることに必死なこの状況下では、「好き」だけで財布の紐(ひも)は緩まない。


 では、コロナ禍の苦境にもかかわらず……いや、苦境だからこそ人々がお金を払う価値とは、いったい何だろうか?

 

 寄付の金額設定や、お礼=リターンの内容、そしてソーシャルメディアなどを用いた告知やテニスファンへの訴求……種々の試行錯誤を繰り返し、関係者やファンの声も参考にしながら探った解。それは最終的には、「突き詰めると、共感やった」と山根氏は言う。


「テニスが好きなのは大前提ですが、なぜこのタイミングで、このメンバーで、この手法で大会をやる必然性があるのかという“コンテンツへの共感”を、ユーザーに打ち出せなかったのが反省点。それが打ち出せるようになり、安全安心にスポーツや文化が楽しめないと人生が無味無臭になるということをユーザーの方々に訴求できたことで、『自分たちもテニスがしたい』『選手のプレーする姿を見たい』という声も高まり、ちょっとずつムーブメントが起きた感じです」


 それら、人々が抱く「共感」のエレメントとは、一つには「新しく生まれるライブの試合が見たい」という、スポーツの魅力に対する純粋な渇望。


 そしてもう一つは、選手たちが抱える葛藤や競技への情熱がメディアなどを通じて広まるにつれ、ファンの間で高まった「選手たちを応援したい」「若い選手が上位選手に向かっていく姿を見たい」という、選手個々に対するエール。山中太陽や佐藤久真莉ら、主催者推薦で出場する若手にも、期待の目が集まりつつある。


 試合のライブ配信も決まり、ファンの声が選手にも届く双方向性が生まれたころから、当初の企画意図である「みんなで作る大会」の機運は急速に熱を帯びていった。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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