連載:日本スポーツ界の若き至宝

16歳の望月慎太郎が抱く壮大な夢 ウィンブルドン優勝はそのスタートライン

内田暁
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今年7月、ウィンブルドン・少年の部で優勝を飾った望月。グランドスラムの男子シングルスで頂点に立ったのは、シニアを含めて日本人初の快挙だ 【Getty Images】

 日本の男子テニスでは、錦織圭以来の逸材であるのは間違いないだろう。今年7月にウィンブルドンのジュニア部門シングルスで優勝し、日本人男子では初めてジュニア世界ランキングで1位となった。望月慎太郎、16歳。13歳で単身アメリカに渡り、錦織も拠点を置くIMGアカデミーで腕を磨く若き至宝は、自身が抱く壮大な夢に向けてまだ走り始めたばかり。ウィンブルドン優勝も、その夢のスタートラインでしかない。

米国に渡ってすぐに受け入れた現実

 温かな拍手が沸き起こるナンバーワンコートの観客席に、深々と頭を下げた。

 表彰式で、フォトグラファーたちに「トロフィーにキスして!」と求められると、溶けそうなくらい照れながら、ぎこちなく優勝の証しに口を近づける。

「なんでオレはここに居るんだ? どうして、こんなことになったんだ??」

 世界中のテニスプレーヤーが“聖地”と仰ぎ見る芝の上で、彼はカメラのフラッシュを浴びながら、今自分が身を置く状況に戸惑いを隠せずにいた。

 ウィンブルドン・少年の部優勝者――それが、16歳の望月慎太郎が勝ち取った肩書きである。

 本人が「なぜ、ここに?」と当惑したウィンブルドンの表彰式だが、その栄冠に連なる道を、彼は3年前に自身の意志で歩み出していた。

 日本テニス協会の元会長であり、『ソニー・アメリカ』のCEO等を歴任した盛田正明氏設立の、『盛田正明テニスファンド』(以下盛田ファンド)。それこそが世界への切符であり、ファンドの支援を受けた望月は、単身、米国フロリダ州の『IMGテニスアカデミー』へと留学する。13歳の誕生日を迎えて、まだ間もない日のことだった。

 各国から“神童”と呼ばれる少年たちが集うその地で、望月が知ったのは、世界の広さと多様性だ。長身から、大人顔負けの高速サーブをたたき込んでくる同じ歳の少年がいる。ラケットを振り上げボールに強烈な回転をかけ、重いストロークを打ち込む豪腕自慢もいる。日本にいたときは、対戦したことのないタイプの選手ばかり。

「パワーでは、絶対に勝てない」

 それが異国の地に身を置いてほどなくして、彼が諦念とともに受け入れた現実だった。
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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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