LiLiCoが語りたい! 映画『アイ,トーニャ』 “腐った”人たちに囲まれた彼女の半生
トーニャの半生すべてが観ていて痛い
観ていてイライラするが、「人に話したくなる映画」だとLiLiCoは言う 【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】
彼女はその後ボクサーに転向しますけど、フィギュアスケートの全盛期のように、拍手をされて愛されているという気持ちが欲しい、人に観てもらいたいだけなんですよね。そこが観ていて痛い。愛なしに育てられるとこうなるのだなという……。
ちょっとイライラする映画ではありますけど、面白くもあり、今回私が挙げた5本のなかで、終わってから一番人に話したくなる映画ではありますよね。
良いシーンをピックアップすると、子役たちがとっても良かったんですよね。特に、スケートリンクでおしっこを漏らした女の子(小さいときのトーニャを演じたマッケナ・グレイス)が今いろいろな映画に出ていて、とても良い役者だなと思いながら観ていました。
小さいときのトーニャを演じたマッケナ・グレイス 【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】
もうひとつは事件が起こったあと、お母さんがトーニャを訪ねていく場面。さすがにお母さんも改心して優しくなったのかなと、あやうく騙されるところでした。じつはこっそりテレコを回して会話を録音していたんですよね。ますます本当に腐った人間だなと。
もっと言うと、あのお母さんだって毎日ウエートレスとして働いて誰にも好かれず、肩に座っているインコだけが友だちなのかしれないですしね。そう考えると、ひたすら悲しい。娘の結婚式をバカにした場面も切ない。あのお母さんが死んだとき、誰も葬式に行かないでしょう。ラヴォナの話をすると悲しくなります。
主演のマーゴット・ロビーはあの頃まだ注目されていませんでしたね。『ハーレクイン』ですごい演技をしてあのイメージが強いと思いますが、『スキャンダル』で一番難しかったと思われる役を演じていて、演技派なんですよね。ソフトセクハラに迷っているあの役がうまさを際立たせるというか……実力者としてこれから注目していかないといけない役者だと思うんです。
男性の審判に、芸術点の点数が低い理由を尋ねて「技術だけでなくアメリカを代表する完璧な家族の姿を観たいんだ」と言われるシーンがありますよね。確かに全部を背負ってリンクに立っているわけだから、トップレベルのフィギュアスケートはすごい世界だと思います。その世界を追放されたあと、トーニャはボクサーになった。それはできることをやろうとした結果なんでしょうけど、ある意味、私達にないものを持っているということだとも思うんです。
ちょこっとだけ、こういう気持ちも人間には必要なのかもしれない。無難な道を歩んだほうがいいとは思うけど、嫌われる勇気が必要なのかもしれない。だから彼女をけちょんけちょんに言うことは私にはできないです。私が罵(ののし)れるのは、あの太った男、ショーンだけだと思います。
【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】
技術の進歩を実感できるところも見逃せないポイントです。スタントを使って撮影したスケートの場面に違和感なくマーゴット・ロビーの顔がなじんでいる。スポーツ映画は今後、もっといろいろなことができるんだろうなと予感させられる、そんな一作でもあります。
(企画構成:株式会社スリーライト)
LiLiCo(映画コメンテーター/タレント)
【写真提供:プランチャイム】