東海大野球部に見る、“信頼”の大切さ 「我慢」の先にある成長を見据えて――

中島大輔

二人の投手がドラフト候補に成長

卒業後、プロ野球へ進む選手もいれば、一般社会に出ていく選手もいる。安藤監督と西郷コーチは、野球だけじゃない部分も学生たちに伝えていく 【写真提供:東海大学野球部】

 首都大学リーグで5季連続優勝を狙う東海大学野球部には、山崎伊織、小郷賢人という二人のドラフト上位候補投手が4年生にいる。ともに大学に入って伸びた右腕で、自慢のストレートは最速150キロを超えるようになった。

 二人が入学時に監督就任した安藤強は、彼らの成長に目を細めている。
「山崎も小郷も高校時代は二桁の背番号でした。それが今は、当時エース番号だった投手を実力的に抜いています。大学でしっかり練習すれば伸びていくことを、自分も二人に思い知らせてもらっています。そういう姿は自分のうれしさ、喜びでもありますね。『お前のほうが上に行ったじゃん!』って」

 安藤が投手を育てる上で、大切にしているのが「我慢」だ。投手はいくらすごい球を持っていても、身体ができてこなければ故障のリスクを避けられない。入学してから夏までは体づくりを中心に取り組ませることで、飛躍する土台ができていく。

 山崎、小郷ともに、2年春のキャンプで球速をアップさせてから成長していった。「二人の球はプロで通用すると思う」と安藤は考える反面、不安な点はともに右肘を痛めていることだ。もし予定通りに今季の首都大学リーグが開幕していたら、いずれも間に合っていなかった。

「夢を追いかけてプロになっても、入ってから勝負しないといけない。肉体的にも精神的にもタフな選手じゃないとダメ。そこを判断していくのが今後だと思っています」

 大学生を預かる指導者にとって、最も大切なのは「選手をどう見抜くか」だと安藤は考えている。

「生活が野球にもつながる」と人材育成も重視

 社会人チームと学生野球で大きく異なるのは、選手数だ。前者は1チーム30人ほどなのに対し、後者の東海大は130人近くになる。

「社会人のときには我慢して起用していれば、絶対成果として返してくれたんですよ。でも、学生は我慢しているだけでは返ってこない。その違いは何かと考えたとき、社会人は毎年新人が5人くらい入ってくる中でうまく回しながらチームをつくれるけど、学生は1学年ずつ卒業していく。だから、1年間の中でチームをつくっていかないといけない」

 社会人チームでは一定レベルを超えた選手がそろうのに対し、130人もいる東海大の選手たちは実力の幅が大きい。だからこそ、指導者には「見る力」が不可欠になる。

 そうした目を養うには格好の環境だと考え、今年、西郷泰之をコーチとして招聘(しょうへい)することにした。日本球界では指導者の育成が課題に挙げられるなか、安藤が西郷にかける期待は大きい。

「西郷は人としてもしっかりしているし、打撃理論を持っています。監督と選手の間にコーチとして立ってもらい、いろんな情報交換をしていきたいですね。勝敗は監督に責任があるけれども、打った・打たないはコーチの責任でもあると思う。そういう中で信頼関係をしっかり築きながら、僕に対して『この選手でいきましょう』と情報を送ってほしい」

 ホンダ時代に2009年の都市対抗で監督、選手として優勝した二人は、東海大を常勝軍団にすることが使命だ。リーグ戦は2018年春から4連覇中。全国大会でも昨年は春、秋ともに4強に入るなど、地力は着実に付けつつある。

 加えて見据えるのが、卒業後に飛躍できる人材育成だ。そのために、西郷は指導者として学生にこんなことを伝えたいと思っている。

「学生のうちは野球だけではなく、勉強を含めた生活があります。生活が野球にもつながってくると思うので、野球の力を磨くのと同時に、これから生きていく中での知識などを身につけていったほうがいい。野球をやっていくうえでも、生き方がいい加減な選手は伸びていかないと思うので」

 学生を指導して4年目になる安藤も同意見だ。

「面白いことに、野球が伸びていく選手は勉強の成績もよくなっていく。努力する姿勢など、通じる部分があると思うんですね。大学に来て3年が経ち、そう感じています」

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著者プロフィール

中島大輔

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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