現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

アトレティコ移籍か残留か、久保の選択を左右するファクターは? 移籍後初ゴールの浅野はマジョルカのキーマンに

山本美智子

ELではベスト16入り、スペイン国王杯では準決勝に進出したソシエダだが、リーグ戦の不安定な戦いぶりが久保の去就に影響を及ぼしそうだ 【Photo by Juan Manuel Serrano Arce/Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第9回目は、噂が再燃する久保のアトレティコ・マドリー移籍の可能性を探るとともに、マジョルカで待望の移籍後初ゴールを挙げた浅野の現地評を伝える。

何度否定されてもゾンビのように……

 久保建英にとって、下部組織時代を過ごしたバルセロナとの一戦は特別で、いつも楽しみにしている試合に違いないが、残念ながらラ・リーガ第26節(現地時間3月2日)のアウェーゲームは累積警告によって出場が叶わなかった。

 すると試合前、バルサのプレス担当者が苦笑いしながら私にこう伝えてきた。

「取材申請をしていた日本の記者が、少なくとも2人はキャンセルしてきたよ」

 以前であれば、許可された試合をキャンセルするとすぐにブラックリストに載せられたものだ。だから熱があろうが具合が悪かろうが、這ってでも会場に足を運んだのだが、プレス担当者の口ぶりからすると、もはやそんな時代ではなくなったのだろう。

 さて、肝心の試合だが、バルサはチャンピオンズリーグ(CL)のベンフィカ戦、レアル・ソシエダはヨーロッパリーグ(EL)のマンチェスター・ユナイテッド戦をそれぞれ3日後、4日後に控えているとあって、両者ともローテーションを採用し、スタメンを多少変更してきた(久保を使えないソシエダは当然だが)。結果はご存知の通り、前半の早い時間にセンターバックのアリツ・エルストンドを一発退場で失い、10人となったソシエダをホームチームが4-0と圧倒。この勝利でバルサは前日に暫定首位に躍り出たアトレティコをかわし、ラ・リーガの単独首位に返り咲いている。

 それにしても、今シーズンのソシエダはなかなか良い流れに乗り切れない。そして、こうした不安定な状態が、「次の夏に久保は移籍するのではないか」という憶測や噂を、何度否定されてもゾンビのように蘇らせるのだろう。

 ただ、第26節を終えてリーグでは9位に沈んでいるとはいえ、今シーズンのソシエダの成績が極端に悪いわけでもない。事実ELはラウンド16に勝ち残り、スペイン国王杯も準決勝進出を決めてみせた(レアル・マドリーとの第1レグは0-1で敗戦)。それに今回は敗れたものの、ラ・リーガ第13節には本拠地アノエタでバルサを1-0で下してもいる。

“ポスト・グリーズマン”の候補として

今季終了後にMLS行きとの噂もあるグリーズマンの後釜候補として、アトレティコが久保をリストアップしているという。もしCL出場権に手が届かなければ…… 【Photo by Cesar Ortiz/Soccrates/Getty Images】

 ただ、良いときと悪いときの差があまりにも激しいのだ。

 今やクラブのレジェンドと呼べる存在となったイマノル・アルグアシル監督が、暫定監督を経て2019-20シーズンに正式なトップチームの指揮官となってから、ここまでその手腕を疑問視されたことはなかった。

 彼が率いてからのソシエダは、過去5年連続で6位以内をキープしており、それは毎シーズン、欧州カップ戦の出場権を獲得してきたことを意味している。この数年でヨーロッパにおけるソシエダの知名度がぐんと高まったのは、イマノル監督の功績と言っても過言ではない。

 しかしながら、その記録も今シーズンで途切れてしまう可能性がある。なにより不穏なのは、今年6月30日でクラブとの契約が終了するアルグアシルが、3月を迎えた現時点でもまだ契約を更新していないどころか、続投の意向すら示していないということだ。

 そんな先行き不透明な状況下、3月1日付の『Nacional.Cat』紙が、「タケ・クボ、スペインの別のビッグクラブへ イマノル・アルグアシルのレアル・ソシエダにアディオス」と、なかなかショッキングな見出しの記事を掲載した。その中身はこうだ。

《昨年のレベルと大きな差がある、今年の「安定感のない」ソシエダがCL出場圏内から外れた場合、久保は前線のさらなる補強を必要としているアトレティコ・マドリーに移籍するかもしれない。ドリブルでの突破力に秀でたサイドアタッカーを求めるディエゴ・シメオネ監督の要望と、アトレティコのシステムに、久保はぴったり当てはまる人材だ》

 ソシエダからアトレティコに移籍して成功を収めた選手として真っ先に思い浮かぶのが、一時期バルサでプレーしたものの、21年夏の復帰以来、現在もシメオネのチームで攻撃の中核を担うアントワーヌ・グリーズマンだ。

 今シーズンは26節終了時点で8ゴール・5アシスト。2試合に1回の割合で得点に絡んでいる計算になる。昨年9月にフランス代表からの引退を表明し、アトレティコでのプレーに集中することで好調を維持しているグリーズマンだが、そんな彼も今年3月21日で34歳。クラブとの契約は26年6月までだが、すでにMLSでプレーしたいとの意向を伝えており、契約満了前に退団する可能性もある。

 アトレティコが、グリーズマンに代わって前線をリードできる次世代のアタッカーを探し求めているのは確かなようで、タイプは異なるが久保の他にもRBライプツィヒのベンヤミン・シェシュコ(21歳)、バルサのフェルミン・ロペス(21歳)といった名前が、連日メディアを賑わせている。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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