台湾プロ野球、世界に先駆けて「開幕」 現地で見えたウイルス対策、選手たちの声
4月12日に開幕した台湾プロ野球。新型コロナウイルス感染の影響で、スタンドには観客を入れず試合を開催 【駒田英】
4月12日午後5時6分(現地時間、以下同)、観客のいない台湾中部・台中市の台中インターコンチネンタル球場に球審の声が響いた。
中信兄弟の先発・ミランダ(昨季まで福岡ソフトバンク)が、統一セブンイレブン・ライオンズの1番打者に投げ込んだ直球が外角いっぱいに決まり、今季の台湾プロ野球(CPBL)の公式戦がスタートした。試合は1対1で迎えた延長11回表、統一が連続適時打で3点を勝ち越すと、そのまま逃げ切り。今季からチームを率いる林岳平監督へ、世界で「いの一番」となる勝利をプレゼントした。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、各国のプロ野球の開幕時期が不透明となる中、無観客ながら、世界に先駆けて「開幕」にこぎつけたCPBLに今、世界的な関心が集まっている。北部・桃園市の桃園国際球場で11日に予定されていた開幕戦、楽天モンキーズと中信兄弟の試合は雨で流れ、12日もグラウンドコンディション不良で中止に。それでも結果的に「開幕戦」となった台中の試合を各国のスポーツメディアが報道。野球に飢えた世界各国のファンがインターネット中継の前に集まった。
「先手、先手」の対策
球場のスタンドには、医療看護、防疫スタッフへの感謝のメッセージも(大型スクリーンの下) 【駒田英】
台湾における新型コロナウイルス感染症の状況は、14日午後2時現在、感染者が累計393名、死者6名、隔離解除数が124名となっている。連日、海外からの帰国者を中心に新たな感染者が確認されてきたが、この1週間あまりは一桁台に留まり、14日は3月9日以来、36日ぶりに新規の感染者数が0となった。感染経路が不明なケースもあり油断はできないが、爆発的な拡大を抑え込んでいるといえる。
もともと大部分を輸入に頼っていたサージカルマスクも、政府が国内メーカーから一括で買い上げ、製造増によって供給量を安定させた。そして、健康保険証のシステムを活用することで、現在は2週間で9枚購入できるようになり、コンビニでの受け取りも可能となった。
2003年のSARSの経験、スペシャリストの重用、中国への警戒感など、現時点における台湾の「成功」にはさまざまな理由が挙げられる。その中でも政府が感染拡大防止のために、「先手、先手」の対策を打ち出していることが大きいだろう。中央感染症指揮センターが毎日記者会見を実施し、陳時中指揮官が丁寧な説明を行っている事も、国民の安心感につながっている。
上限150人入場から、完全無観客へ
感染拡大防止の為、ファンの入場は禁止されている 【駒田英】
そして、東京五輪最終予選の延期などにより、開幕が2度延期された一軍公式戦は当初、シーズンチケットの購入者、上限150人の入場を認める方針だった。だが、衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)や各自治体と協議の結果、「何よりも集団感染のリスクを減らし、ファンの方々の健康や安全を最大限考慮」(CPBL幹部)するため、完全無観客での実施が決定した。
なお、今後、感染拡大に伴う政府の外出禁止令、あるいはコーチ・選手・スタッフなどに感染者が出た場合、リーグは中断されるという。CPBLの呉志揚コミッショナーは、今季はオールスターゲームが中止となる上、オフのアジアウインターベースボールリーグの開催も見送らざるを得ないが、4チームが120試合戦えるよう全力を尽くしたい、と述べている。
取材はマイク使用で「ソーシャル・ディスタンス」確保
囲み取材ではマイクを使い、報道陣との「ソーシャル・ディスタンス」を確保 【駒田英】
メディアやスタッフについても、政府の方針に従い、球場への立ち入り人数の制限を設けており、入場者把握の為の事前申告、入場時の検温、アルコール消毒、健康申告書の提出を義務付けている。また、囲み取材も選手・コーチはマイクを使うことで、報道陣との「ソーシャル・ディスタンス」を確保している。
このような政府、CPBLによる各対策、各球団の行動により迎えられた「開幕」。蔡英文総統は12日、自身のSNSに中信兄弟対統一のTV中継を愛猫のクッキーとともに観戦する写真をアップロード。国民が感染拡大防止の為に力を合わせてきた結果、世界で最初に「開幕」できたと、喜んだ。