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遠藤がプレミアを制し、三笘は世界最古のカップ戦で優勝――そんな“日本人ダブル”が現実味を帯びてきた

森昌利

FA杯5回戦で強敵ニューカッスルを延長戦の末に撃破。三笘が見据えるのは、今季で144回目となる世界最古のカップ戦での優勝だ 【REX/アフロ】

 3月2日(現地時間、以下同)、三笘薫擁するブライトンはニューカッスルとの激闘を制し、FA杯準々決勝進出を決めた。現在の好調をキープできれば、2022-23シーズンの4強を超えるのはもちろん、タイトル獲得も夢ではないだろう。一方、5シーズンぶりのリーグ制覇へ突き進むリバプールは順調そのもの。2月26日のニューカッスル戦では、遠藤航がクローザーとしての役目をきっちり果たし、2-0で勝利を収めた。もたつく2位アーセナルとの差は1試合多いながら13ポイントまで広がり、早ければ4月中にも通算20回目の優勝が決まりそうだ。

こんなに面白い仕事はそうそうない

「私が生まれて初めてスタジアムで観たフットボールの試合が、ブライトンとボーンマスのリーグ戦だった。日付は1969年8月23日。結果は1-1のドロー。ディビジョン3(当時のイングランド3部)の試合だったよ。それから56年近くの月日が流れて、あの両チームが今こんなふうに来季の欧州戦参戦をかけてプレミアリーグの一桁順位同士で対戦するなんて、誰が想像できたというのだろう」

 2月25日に行われたブライトン対ボーンマスのリーグ戦が終了すると、筆者の隣で誰に語りかけるともなく、ブライトン出身のフットボールジャーナリストであるニック・シュチェパニク記者が感慨深げにそう呟いた。190センチはある長身で白髪のニックは、少し強面で、こう言っては失礼だが、筆者にはドラキュラのように見えて、気軽には話しかけられない雰囲気がある。しかしいったん口を開くと、まさにフットボールの生き字引のような人。しかも非常に紳士的で、その話は聞く人の耳を捉えて離さない。

 ちなみに、彼が生まれて初めてスタジアムで地元のブライトンの試合を観戦したのは15歳の時だったという。現在71歳だが、今でも英高級紙『サンデー・タイムス』で健筆をふるう第一線の現役記者だ。

 一方、日本の新聞社や通信社の記者は大抵、遅くとも40代半ばで記者を引退して「デスク」と呼ばれる編集方に回る。

 3年前の3月に還暦を迎えた筆者は、記者は40代までという常識がある日本人の同業者に「いつまでこの仕事を続けるんですか?」と聞かれることがある。フリーランスの筆者はいつまでも好きなだけ続けられることもあって、図々しくも「最低でも75歳まではやりたい」と答えている。もちろん健康を維持しなければならないし、需要がなくなればそれまでだが、求められるのであれば一生記者を続けたい。

 そう思うのは、宮市亮がその年の夏に英国の労働許可証を取得したことで、2011年の10月2日にトットナム対アーセナルのノースロンドン・ダービーを取材するためホワイト・ハート・レーン(当時のトットナムのホームスタジアム)を訪れ、その記者室でとある英国人記者のサプライズの誕生日パーティーに偶然同席したことがきっかけだった。

 著作も多く、小説家でもあるフットボールライターのブライアン・グランヴィル氏はこの1週間前に80歳の誕生日を迎えていた。

 現在の英国フットボール記者協会の会長である『デイリー・ミラー』紙のジョン・クロス記者が祝辞を述べて、「80」の背番号がついたアーセナルのユニホームを手渡していた。バースデーケーキも用意され、そこにいた記者全員で「ハッピー・バースデー」を合唱したのを覚えている。

 そんな祝福の真ん中にいたグランヴィル氏の姿を見て、80歳になっても取材を続けているのか、自分もあんなふうに年齢にとらわれることなく、フットボールを追い続けたいものだと思った。だって、他にこんなに面白い仕事はそうそうないのだ。

 ブライトンのニックも、還暦を過ぎた筆者にとっては貴重な年長者の1人。彼のように子どもの頃に英国男子として稲妻のようなフットボールの洗礼を受け、このスポーツを一筋に追い、生涯をかけて原稿にする記者がここには大勢いる。そして知識と記憶の年輪を重ねながら、情熱を燃やし続け、20代・30代・40代の記者に混じって選手や監督の談話を取り続けている。

三笘もチャンピオンズリーグ参戦を意識

三笘の最大の見せ場は前半37分。クロスをダイレクトで捉えた右足ボレーは、バウンドして右ポストを叩き、惜しくもゴールはならず 【Photo by Mike Hewitt/Getty Images】

「プレスが相当強くて、僕らの前線のところもうまくハッキングしていました。セカンドボールを拾われてましたし、配置のとこもやっぱりうまい。本当に称賛されるチームだと思います」

 ジョアン・ペドロがPKを決めてブライトンが前半12分に先制したが、後半16分にジャスティン・クライファートにものすごいミドルを決められて、1-1の同点となった。しかし途中出場したベテランFWのダニー・ウェルベックが後半30分に勝ち越し点を奪って、ブライトンが2-1で辛くも勝利した試合後、三笘薫がそう話してボーンマスを称賛した。

 両チームともフィットネスレベルが高く、どちらも明らかに好調だった。攻守が激しく入れ替わった。選手の走りの質が高く、量も多い。したがって、なかなかスペースが生まれない。オープンプレーから生まれたクライファートとウェルベックのゴールは、いずれも本当にクオリティが高かった。

 世界最高峰と言われるプレミアリーグにあっても、本当に隙がなく、ハイレベルで、見どころ満載の試合だった。

 だからこそ、ニックが56年前の3部同士の試合に思いを馳せて、感激したのだ。

 三笘にも見せ場があった。前半37分にタリク・ランプティが右サイドから放ったクロスにファーサイドで右足のボレーを合わせた。しかしこのシュートは惜しくも対角線上の右ポストを直撃した。

「もうちょい(体を)ひねれれば入ったと思いますけど、まあちょっと難しかったですね」と三笘。少しだけボールが後ろに入って、その分わずかに体が開いて、蹴ったボールが流れた。

 もしも1-1のまま試合が終わっていれば、このポスト直撃のシュートが勝ち点を落とした要因の1つに挙げられただろう。しかしブライトンはゴールを奪ってしぶとく2-1で勝利を飾り、勝ち点を43まで伸ばして、いよいよ来季の欧州戦参戦が現実味を帯びる位置まで上がってきた。

 現時点でUEFAランキング1位のイングランドは、来季の欧州チャンピオンズリーグに5チームを送り出す可能性が高まっている。そんななか、ブライトンは現在リーグ8位とはいえ、5位チェルシーとの勝ち点差はわずかに3。こうなると三笘も、「チャンピオンズリーグに出たことのないチームなので、そこは間違いなく全員が目標にしてると思います」と話して、欧州最強戦出場を意識した。

 さらには「ヨーロッパの舞台で戦うということは、別のレベルのところで戦うということ。それは選手として、間違いなくいい経験になります」と語って、昨季に味わったヨーロッパリーグの戦いをかみ締め、来季の欧州戦参戦の夢を膨らませていた。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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