連載:「Sports assist you」仕掛け人の証言

コロナ禍でJFAが果たすべき情報発信 大切にしている「3つの軸」

宇都宮徹壱

インタビューに答える日本サッカー協会(JFA)の大脇氏。取材はZoomを使って行われた 【スポーツナビ】

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて、日本サッカー協会(JFA)が3月11日からスタートさせた「Sports assist you〜いま、スポーツにできること〜」。当初は、欧州でプレーする日本代表選手のテクニカル系やメッセージなどの動画がメインだったが、4月10日から日本代表の過去の試合映像が新たにラインナップに加わった。その経緯について、JFAプロモーション部プロモーショングループの大脇友里佳氏が説明してくれた。(取材日は4月23日)

「3月11日から4月5日は、われわれにとって第1フェーズだったと捉えています。学校に行けなくなって自宅に籠もっている、サッカー少年少女たちに向けたコンテンツを、とにかく出し続けようという感じでした。次の第2フェーズは、緊急事態宣言が解除されるまで。『3つの軸』に沿って、優先順位を付けながら順次アップしていこうということで、その具体例が日本代表の試合映像です。これはスポーツ観戦ができなくなった、大人のサッカーファンの余時間消費を目的に企画されました」

 ここでいう「3つの軸」とは、(1)新型コロナの正しい啓発、(2)家で楽しめるコンテンツ、(3)身体を動かすためのメソッド。当プロジェクトでは「事態の推移に応じて、コンテンツの傾向や出し方も意図的に変化を持たせています」と大脇氏。そんな彼女は、早稲田大学のア式蹴球部女子部で主将を務めた経歴を持つ。その後、同大学の大学院を修了して、2012年にJFAに入社。同年に日本で開催されたU-20女子ワールドカップ(W杯)では、新人ながらU-20女子日本代表の撮影スタッフにも抜てきされた。

「私はナショナルレベルではなかったので、プレーヤーとしてのキャリアは大学までと決めていました。大学院では指導や分析の勉強をしていたんですが、たまたま映像(の撮影や編集)ができるということで、その頃からJFAでもお手伝いをさせていただくようになったんです。ただしテクニカルスタッフということではなく、むしろ『リスペクト』のようなプロモーションや広報の仕事に、当時から軸足が動いていましたね。12年のヤングなでしこの撮影の仕事も、そうした流れから任されたと思っています」

第3フェーズで「何を発信すべきか」

「Sports assist you」はヨーロッパでプレーする選手たちの呼び掛けからプロジェクトがスタートした 【Getty Images】

 前回ご登場いただいた小暮亮祐氏は、同じプロモーション部ではあるものの、コミュニケーション戦略グループのグループ長。日本代表のコミュニケーション戦略やコーポレートブランディング戦略が主な業務である。これに対してプロモーショングループは、公式サイトやSNSなどを使って、いかに効果的にアウトプットするかという部分で力量が問われる職種だ。今回のプロジェクトではローンチの段階から関わり、現在はSNSでの発信やリサーチを担当。毎朝9時30分から開かれる、ウェブ会議のメンバーでもある。

「欧州組の皆さんから『自分たちも何かやりたい』というお話をいただいた時は、すごくうれしかったし、ありがたく思いました。私たちだけでは、どうしてもできることは限られてしまう。けれども、実は欧州組の皆さん同じ思いであることを知って、これがサッカーの力、スポーツの力だなって思いました。それだけに、自分たちの責任も強く感じています。せっかく日本代表の選手たちが表に出てくれるわけですから、もっと全体のバランスを考えながら、コンテンツを提供していかないと常に考えていますね」

 前回のコラムで私は、このプロジェクトに関わるスタッフが「サッカー」と「サッカー以外」の出自に分かれており、なおかつ両者が絶妙な補完関係にあることを指摘した。小学1年生からプレーを続けてきたという大脇氏は、明確に前者。だからこそ、現役プレーヤーから協力の申し出があった時はうれしく感じたし、情報発信についても「プレーヤーの立場だったら」というのが発想の原点にある。そんな中、最近よく考えるのは「次のフェーズで何を発信すべきか」であるという。

「第3フェーズに向けたコンテンツというのは、まだ作られていません。(緊急事態宣言の)解除後がどうなっているかも分からないですし。ただ、いつかは日常が戻って、サッカーの活動が再開される日が戻ってきます。そうなった時に、ずっとトレーニングできなかったプレーヤーが、いきなりトップコンディションでサッカーをするのは無理ですよね。最近は指導普及部の人たちとも話をしながら『日常に戻るためのコンテンツ』というものを考えています。それが、どのタイミングで出せるかは分かりませんが」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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