連載:「Sports assist you」仕掛け人の証言

JFA小暮氏が見据えるプロジェクトの今後 次のフェーズは「他競技への横展開」

宇都宮徹壱

マーケティング畑を歩んできてJFAへ

インタビューに答える日本サッカー協会(JFA)の小暮氏。今回の取材もZoomを使って行われた 【スポーツナビ】

 今日も日本サッカー協会(JFA)広報部から、メディア関係者宛にメールが送られてきた。3月11日から始まった、新型コロナウイルス感染拡大を受けてのJFAのプロジェクト。この日は、FC東京の東慶悟、カマタマーレ讃岐の竹内彬、そして知的障がい者サッカーの結城隆の3選手から「コロナウイルスと戦う全ての人々へ感謝と応援メッセージ」の動画がアップされたことが伝えられた。メールの送信は、決まって14時台。ほぼ毎日、動画は更新されているから、担当スタッフも連日ミーティングを行っていることは容易に想像できる。

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「毎朝9時30分から、ウェブ会議でミーティングをやっていますね。出席するのは私、SNS担当の大脇(友里佳)、それからサイト担当、動画担当、広報といった面々。『今日は何を出すか』とか『これからどういう方向で行くか』といったことを話し合っています。みんな思いをもってやっているので、方向性をめぐって意見がぶつかることもあります。それでもウェブ会議ということもあって、その時はスパッと区切って、翌朝はフレッシュな気分でまたミーティングができていますね」

 そう語るのは、JFAプロモーション部コミュニケーション戦略グループグループ長の小暮亮祐氏である。プロモーション部は昨年作られた部署で、部長を入れて現在18名。コミュニケーション戦略グループは、日本代表のコミュニケーションやコーポレートブランディングの戦略を担っている。総勢3名の精鋭部隊を率いる小暮氏は、昨年6月にJFAに入社したばかり。そのキャリアはユニークで、ビクターエンタテインメント、リクルートキャリア、そして前職が日産自動車。一貫してマーケティング畑を歩んできたという。

「もちろん業界によって商材は違いますが、自分にとって愛着が持てるものを世の中に広めたいという思いは、どこに行っても同じでしたね。ちょうど40代を迎えるにあたり、これまで培ってきたものをどう生かしていくべきかを考えたとき、ずっと身近にあったサッカーだろうという結論に至りました。そうしたら『JFAがマーケティング部門で人材を募集している』という情報が入ってきたんです。無事に採用となって、昨年6月から『いかにサッカーファンを増やしていくか』というのが、現職でのテーマとなりました」

他競技に横展開していくフェーズへ

「Sports assist you」はヨーロッパでプレーする選手たちの呼び掛けからプロジェクトがスタートした 【Getty Images】

「Sports assist you」のプロジェクトが、どのような経緯で立ち上がったかについては、前回の須原清貴専務理事のインタビューで明らかにした。今回からは2回にわたって、実務的なポジションでプロジェクトに関わる、JFAのスタッフにフォーカスすることにしたい。取材を通して興味深く感じられたのは、プロジェクトに関わる人々の出自が「サッカー」と「サッカー以外」にきっぱり分かれていること。そして、両者の補完関係がしっかりできていることである。プロジェクトの現状について「サッカー以外」代表の小暮氏はこう語る。

「正直なところ、これだけ毎日コンテンツが上がってくるというのは予想外でした。選手たちの動画は途切れる気配がないし、こちらもストックの心配をする必要がない。その一方で、始めた頃に比べるとメディアの露出が、少しずつ減っているようにも感じています。スポーツ以外の著名人も、いろいろ発信するようになったのは一因かもしれませんね。われわれも最初は、スピード感と思いだけでやってきました。けれども今後は、スポーツ界としてできることを考えながら、発信していく必要性を感じています」

 前回の須原専務理事へのインタビューでも触れたとおり、もともとプロジェクトがスタートするきっかけとなったのは、ヨーロッパでプレーする選手たちの「自分たちにできることはありますか?」という呼び掛けであった。よって当初は、欧州組の日本代表選手によるテクニカル系やメッセージ色の強い動画が中心。小暮氏をはじめとするスタッフも、それらを次々とアップしていった。やがて動画がたまってくるにつれて、コンテンツを大きく3つに分類した上で、今後の方向性についても意識するようになったという。

「まず、新型コロナについての正しい啓発。次に、自宅で楽しめるようなコンテンツ。そして、身体を動かすためのメソッド。これら3つのテーマを踏まえて、他競技にも横展開していくのが次のフェーズと考えています。幸い、Jリーグや他のスポーツ団体からも『一緒に何かできませんか?』と、お声がけをいただくようになりました。とはいえ、この『#いまスポーツにできること』というのは、別にJFAだけのものではないんですよね。競技やプロアマを問わず、誰がもが自由に使っていただければと考えています」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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