JFA専務理事が語るプロジェクトの舞台裏 選手、職員の間で芽生えた課題意識
日本代表選手によるメッセージ動画を配信
YouTubeの「JFATV」にアップされた日本代表選手たちによるメッセージ 【(C)JFA】
「僕がイタリアにいて思うのは、初期の段階でみんなが油断していたのではないかということ。日本のみなさんも、心のどこかで『ヨーロッパで広がっているね』くらいに思っているかもしれません。本当に感染は一気に広がっています」(吉田麻也)
「日本でもおそらく、今後感染が拡大していくでしょう。それを止めるのは、皆さん次第です」(香川真司)
「家にいて、他の人との接触を避けることが、感染を避ける一番の近道だと思います」(冨安健洋)
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動画の内容は、実にバリエーション豊かだ。選手がファンに向けて語りかけるものもあれば、乾貴士が超絶テクニックを披露したり、長友佑都が手洗いの重要性を伝えたり、さらには森保一代表監督とスタッフによる「広くない場所でもできる!! サッカー日本代表トレーニング」というのもある。実践的なものも多く、出席停止で暇を持て余しているサッカー少年少女には、格好のトレーニングメソッドであると言えよう。
それにしてもこのプロジェクトは、いったいどのように始まったものなのだろう? 最初の動画がアップされたのは3月11日。WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの「パンデミック」を宣言する前日である(日本時間)。JFAと強い関係性を持つ、電通主導によるものなのだろうか? 実はこのプロジェクトのスタートには、知られざるストーリーが存在した。殺伐としたニュースばかりが続く今だからこそ、この機会にぜひお伝えしたい。
須原専務理事がプロジェクトを統括
インタビューに答える須原専務理事。今回の取材もZoomを使って行われた 【スポーツナビ】
そう語るのは、JFA専務理事の須原清貴氏である。取材が行われたのは3月31日。JFAの東京・御茶ノ水のオフィスは2月27日から原則として使用禁止となり、全職員がテレワークとなっている。今回のインタビューも、最近急速に普及が進むZoomを使って行われた。須原専務理事は「Sports assist you」を統括する立場にあり、今回のインタビューにも快く応じていただいた。もっとも、多くのサッカーファンも、この人の名前はあまりなじみがないだろう。まずはご本人から、現職までの経歴を振り返ってもらおう。
「これまで私は商社や外資系のコンサル、さらには教育産業や外食産業など、さまざまなビジネスに携わってきました。けれどもサッカーについては門外漢で、仕事はもちろん、プレーしたこともありません。ただ、私の長男が地元のサッカー少年団に入ったことで『お父さんコーチ』になって、2級審判の資格を取ったんです(現在は返納)。そこからJFAの審判委員会に関わるようになり、私の変わった経歴が田嶋(幸三)さんの目に止まったんでしょうね。『非常勤の理事になってほしい』と言われたのが4年前の2016年です」
16年といえば、田嶋氏がJFA会長に就任した年であり、組織として経営の多角化を模索していた時期に当たる。米国のハーバードビジネススクールでMBAを取得し、住友商事を皮切りに、ボストンコンサルティンググループ東京事務所、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンなどでCEOやCOOを歴任した須原氏の経歴に、田嶋会長もサッカー人脈にはない可能性を感じたのだろう。かくして2年間の非常勤を経て、18年より常任のJFA専務理事に就任した須原氏。しかし、「今も慣れていないです」と当人は苦笑する。
「これまでいろんなビジネスをやってきて、会計期や決算期を経て1年もたてば、業界の『風景』って見えてくるんですよ。でもサッカーの世界は4年周期で回っているせいか、2年たっても見えてこないし、去年の3月と今年の3月では違うことがあまりにも多い。そこにサッカー界独特の奥深さを感じています。JFAには技術、審判、広報、マーケティングといった部署がありますが、それら事務方の統括をするのが私の仕事ですね」