連載:「Sports assist you」仕掛け人の証言

JFA専務理事が語るプロジェクトの舞台裏 選手、職員の間で芽生えた課題意識

宇都宮徹壱

日本代表選手によるメッセージ動画を配信

YouTubeの「JFATV」にアップされた日本代表選手たちによるメッセージ 【(C)JFA】

「今、新型コロナウイルスによる影響で亡くなられた方々、そして感染した方々が世界中で増えています。僕が住んでいるスペインでも、毎日数千人単位で感染者の数が増えています」(柴崎岳)

「僕がイタリアにいて思うのは、初期の段階でみんなが油断していたのではないかということ。日本のみなさんも、心のどこかで『ヨーロッパで広がっているね』くらいに思っているかもしれません。本当に感染は一気に広がっています」(吉田麻也)

「日本でもおそらく、今後感染が拡大していくでしょう。それを止めるのは、皆さん次第です」(香川真司)

「家にいて、他の人との接触を避けることが、感染を避ける一番の近道だと思います」(冨安健洋)
 YouTubeのJFA(日本サッカー協会)TVにアップされた「#StayHome 欧州でプレーする選手から日本の皆さんへ」。新型コロナウイルスの感染拡大により、日本では不要不急の外出を控えるよう政府や自治体からの訴えが続いている。そんな中、さらに深刻な状況にあるヨーロッパから届いた代表選手たちのメッセージ動画は、よりリアルで説得力が感じられる。これはJFAによる「Sports assist you〜いま、スポーツにできること〜」というプロジェクトの一環。今も国内外の代表選手や関係者による、さまざまな動画が連日アップされている。

 動画の内容は、実にバリエーション豊かだ。選手がファンに向けて語りかけるものもあれば、乾貴士が超絶テクニックを披露したり、長友佑都が手洗いの重要性を伝えたり、さらには森保一代表監督とスタッフによる「広くない場所でもできる!! サッカー日本代表トレーニング」というのもある。実践的なものも多く、出席停止で暇を持て余しているサッカー少年少女には、格好のトレーニングメソッドであると言えよう。

 それにしてもこのプロジェクトは、いったいどのように始まったものなのだろう? 最初の動画がアップされたのは3月11日。WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの「パンデミック」を宣言する前日である(日本時間)。JFAと強い関係性を持つ、電通主導によるものなのだろうか? 実はこのプロジェクトのスタートには、知られざるストーリーが存在した。殺伐としたニュースばかりが続く今だからこそ、この機会にぜひお伝えしたい。

須原専務理事がプロジェクトを統括

インタビューに答える須原専務理事。今回の取材もZoomを使って行われた 【スポーツナビ】

「電通さんとは、私もよくお仕事をご一緒させていただいています。けれども今回の件では、電通さんにはお願いしていません。今回の『Sports assist you』については、純粋に自然発生的というか、ボトムアップでスタートしているんですね。予算もかけていないから、ちょっとゆるい作りになっています」

 そう語るのは、JFA専務理事の須原清貴氏である。取材が行われたのは3月31日。JFAの東京・御茶ノ水のオフィスは2月27日から原則として使用禁止となり、全職員がテレワークとなっている。今回のインタビューも、最近急速に普及が進むZoomを使って行われた。須原専務理事は「Sports assist you」を統括する立場にあり、今回のインタビューにも快く応じていただいた。もっとも、多くのサッカーファンも、この人の名前はあまりなじみがないだろう。まずはご本人から、現職までの経歴を振り返ってもらおう。

「これまで私は商社や外資系のコンサル、さらには教育産業や外食産業など、さまざまなビジネスに携わってきました。けれどもサッカーについては門外漢で、仕事はもちろん、プレーしたこともありません。ただ、私の長男が地元のサッカー少年団に入ったことで『お父さんコーチ』になって、2級審判の資格を取ったんです(現在は返納)。そこからJFAの審判委員会に関わるようになり、私の変わった経歴が田嶋(幸三)さんの目に止まったんでしょうね。『非常勤の理事になってほしい』と言われたのが4年前の2016年です」

 16年といえば、田嶋氏がJFA会長に就任した年であり、組織として経営の多角化を模索していた時期に当たる。米国のハーバードビジネススクールでMBAを取得し、住友商事を皮切りに、ボストンコンサルティンググループ東京事務所、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンなどでCEOやCOOを歴任した須原氏の経歴に、田嶋会長もサッカー人脈にはない可能性を感じたのだろう。かくして2年間の非常勤を経て、18年より常任のJFA専務理事に就任した須原氏。しかし、「今も慣れていないです」と当人は苦笑する。

「これまでいろんなビジネスをやってきて、会計期や決算期を経て1年もたてば、業界の『風景』って見えてくるんですよ。でもサッカーの世界は4年周期で回っているせいか、2年たっても見えてこないし、去年の3月と今年の3月では違うことがあまりにも多い。そこにサッカー界独特の奥深さを感じています。JFAには技術、審判、広報、マーケティングといった部署がありますが、それら事務方の統括をするのが私の仕事ですね」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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