JFA田嶋会長の妻・土肥美智子医師が語る新型コロナ感染者、濃厚接触者のリアル

いとうやまね

土肥美智子医師は、身近で起きた新型コロナ感染について、体験談を冷静に話してくれた 【いとうやまね】

 3月17日に新型コロナウイルスの陽性が判明し、声明を発表した公益財団法人日本サッカー協会(JFA)・田嶋幸三会長。その妻であり、国立スポーツ科学センター(JISS)の医師・医学博士で、サッカー日本代表のチームドクターでもある土肥美智子医師に話を伺う連続インタビュー。

 第1回は、感染者が出た家庭のことや、保健所からの指導、体験者だから分かるさまざまな状況を、医療従事者としての冷静な目で語ってもらった。また、濃厚接触者である自らが受けた抗体検査の可能性についても聞いた(インタビュー取材は4月3日にオンラインで実施)。

「ちょっと微熱がある」。家の中からの電話

――4月2日に退院された田嶋会長は、今も家族とは別のところに滞在しているとお聞きしますが。

 PCR検査で2度の陰性が確認されたので、基準はクリアし無事に退院しました。状態は落ち着いています。ただ、これは医学的に分からない部分なのですが、陰性後に陽性になるケースもゼロではなく、そういったことも含めて主治医の先生と相談し、別のところで自主隔離をしています。今までのデータから鑑みて、1カ月ほどあればまず安全だろうということです。田嶋の立場上のこともありますし、万が一を考えて自宅には戻っていません。

――田嶋会長が発症した時の話を伺えますか?

 3月14日にJFAの理事会に出席し、帰宅してそのまま自分で寝室に行きました。私はリビングにいたのですが、家の中で携帯に電話が入ったんです。寝室から「ちょっと微熱がある」と言ってきたので、私は「そこから出てこないように」と指示しました。8日に海外出張から戻ったばかりなのと、新型コロナの話題は、ここ日本でも大きくなりつつありました。我が家には高齢者もいますし、私も医療従事者なので、感染するわけにはいきません。まずは自宅の寝室に隔離しました。

――家での食事は?

 寝室の入口で距離を置いて渡し、食べ終わったら廊下に出してもらうという方法です。家では対症療法だけしていたのですが、前の晩に続き15日の夜も熱が出たので、保健所に相談することにしました。16日朝に田嶋が自分でコンタクトを取り状況を話したところ、「検査に来てください」と言っていただいたので、私が車を運転して指定の病院に送り届けました。

――たしか公共交通機関は使えないのですよね?

 保健所からはそう言われました。病院は歩いても30分くらいのところだったのですが、車で行くことにしました。感染の疑いのある田嶋は、運転席から一番遠い対角線上の席に座らせました。帰宅するときには窓を開けて換気をし、家に帰ってからすぐに次亜塩素酸ナトリウム液で車を消毒しました。その時はまだ陽性かどうかは分からなかったのですが、可能性があると私自身が判断してそうしました。

――病院の中には土肥先生も一緒に入られたのですか?

 入りません。検査結果が出るまでは入院になると、あらかじめ保健所に言われていたので、入口で降ろして、私はすぐに帰りました。田嶋本人は着替えなどの荷物を持って中に入っていきました。もし、肺炎が見つかり陽性ならばそのまま長期入院になるので、すべて準備をして病院に向かいました。

夫の陽性判定と濃厚接触者の生活

――先生は家で連絡待ちですね?

 検査翌日の17日に陽性が分かり、保健所と田嶋本人から連絡が来ました。田嶋とはスマホで連絡を取り合っていました。そこから保健所が濃厚接触者の認定をすることになります。発症したのが3月14日なので、その後、田嶋と接した人間で、家の中では私と私の母が濃厚接触者となりました。保健所からはメールと電話で、「2週間自宅待機して健康観察してください」との指示を受けました。

 私の方は医者というのもありますから、前日の段階で職場に連絡を入れています。「もし田嶋が陽性ならば濃厚接触者になるので、このまま自宅に待機します」と伝えています。なので、田嶋が発症してからJISSには行っていませんし、実のところ、その前になでしこジャパンの海外遠征があったため、3月5日からJISSには行っていないんです。

――感染者はスマホを病室に持ち込めるのですね?

 それは大丈夫でした。16日の検査の時点で、X線とCT検査で肺炎があると言われたらしく、本人から連絡がありました。これは新型コロナ感染の可能性が高いなと思いました。熱だけなら分からないのですが、熱がある上に肺炎があったということで、かなりクロに近いと。そして、やはり陽性でした。

――その時、すでに同じ欧州サッカー連盟(UEFA)の会議に出席した人の感染が報じられていました。

 セルビアサッカー連盟の会長が14日で、スイスサッカー連盟の会長が15日だったと記憶しています。自宅に残った家族は、17日から不要不急の外出は控えることになりました。ただ、濃厚接触者ということで感染が確認されたわけではないので、絶対に家から出てはならないということではないんです。日用品を買いにスーパーには行っていました。

――保健所からの指導は?

「外出時にはマスクをしてください。人混みには行かないように」と言われました。あと、これは個人の判断ですが、同じマンションの住人は田嶋のことも知っていますので、メールで状況をお伝えし、管理組合の方で建物の消毒をすることになりました。私自身もいろいろ拭いたりはしたんですが。マンションの方たちも、発症していない私であっても、突然、出くわしたら不安に思うでしょうから、買い物に行くときは極力エレベーターを使わず、階段を使っていました。外出もなるべく人の多い日中は避け、夜にしました。

――マンションの消毒はどのあたりまでやるのでしょう?

 建物にどれだけウイルスが付着しているか、ということなのですが、消毒するのは感染者が通ったであろう場所です。ウイルスは時間が経てば死滅します。例えば空気中だと3時間ほどで、プラスチック上だと2〜3日というデータも出ています。なので、普段使用している通路やエレベーターを拭いてあげれば問題はありません。消毒は保健所の指示ではなく、各マンションや建物の管理組合の判断になります。保健所がやるものではありません。

――田嶋会長が発表された文書や会見内容は、先生が監修されたのですか?

 それはないです。私も彼が何をしゃべったかをネットで知るくらいで。ただ、田嶋も不安や疑問に思ったことはすぐに聞いてくるので、それに対しては一つひとつ答えています。たしかに、こういう予定で動いて、ここで熱が出てとか、同席していたセルビアの会長が発症した事実にも触れた方がいいとか、多少アドバイスはしています。本人の診断も大事ですが、自分と接した方もいるわけですから、それもきちっとお伝えして、感染をこれ以上、広げないようにしなければなりません。

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著者プロフィール

サッカーおよびフィギュアスケートのコラムニスト、サッカー専門TV、欧州実況中継、五輪番組のリサーチャー。コメンテーターとしてTVにも出演。Interbrand、Landor Associates他で、シニアデザイナーとしてCI、VI開発、マーケティングに携わる。後に、コピーライターに転向。著書は『氷上秘話〜フィギュアスケート楽曲プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱』他、構成『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子)他。

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